国内600万事業所4100万人SOHOのイメージって?



 もともと金融やIT業界(インフォメーション・テクノロジー)の市場戦略用語だったSOHOが、大企業のリストラや行革によるさまざまな規制緩和・自由化のトレンドのなかで、最近ではベンチャーやニッチ新ビジネス、あるいは女性の在宅型社会復帰、組織離脱者シルバー問題、はたまた長期不景気時代のデジタル路線による公共投資や消費刺激策のわかりやすい事例になりつつある。

 わかりやすくいえば、「ニホンはもーダメなんだから、みんなで会社をやめてビン ボーでもいいから、自宅やスモールオフィスで自分の好きなことやって、インターネ ットみたく勝手にひとりで盛りあがろーぜ」 という感じかな(笑)。少なくともSOHOというキーワードをはじめて耳にする、多く のフツーのひとはそう感じているはずに違いない。

 というのもSOHOが一般に語られるとき、何故だか、「窮屈そうな自宅でパソコンに向かい合うノーネクタイのニヤニヤしたひとたち」という光景がセットで付いてしまうのが一般的だからだ。言い換えれば、組織サラリーマンのシンボル描写が地獄の満員電車や昼の巨大ビルディング、夜の屋台であるように、SOHOにも早くもステレオタイプ化されたビジュアルイメージが固定化されつつある。

 これは危険なことである。
 なんでか?とゆーと、昔の漫画家が己の描写をリンゴ箱の前に座るベレー帽の団子鼻(そりゃ手塚治虫だけだって)という風に自虐的に描いたのと同じで、社会というものは常にわかりやすさ、共感を得られるものにパワーシフトする傾向がある。謙譲
と忍耐が美徳の日本的風土のなかで、シボレーに乗って葉巻をくわえた漫画家がいないように(ホントは何人かいそうだけど)、ゴージャスでデカダンスな志向のSOHOは、早くもみずからSOHOとは名乗れない(名乗りたくない)状況ができつつある。

 SOHOの先進エリアであるNYのビレッジやシリコンアレーならば、同じ環境でも部屋 中がグリーンで覆われていたり、ラブラドール犬やカメレオンが床を這っていたり、 登場するモデル自体がアフロヘアーだったり、キュートなギャル集団だったり、SOHO 自体もっとクレージーでアナーキーなイメージがあったりする。

「SOHOはパソコンを駆使して頭脳労働してるから自分達とは文化も背景も違う」 ILOダイバーシティワーク研究会で会った、受託労働の最低報酬制度の制定を訴える西 陣のSOHO氏は、1000年の伝統を誇る京都のギルド的因習を嘆く。
あるいは、「中小企 業のオヤジがメーカーに煽られて補助金でLANとかいれて、いきなりSOHOをきどっち ゃって、なんかヘンよね〜」と、ある国際コンサルタント系SOHO女史はのたまう。
 つまりSOHOの多様性については、SOHO自身がまだ共通のイメージも認識も持ち得て いないのが現実で、おそらくその形態やイメージは職業の多様性と同じぐらい無限に 存在するはずだ。これはビジネスや仕事に対する姿勢にも当てはまる。

 たとえばSOHOギルドのメンバーは比較的「情報・サービス」分野の人が多いが、そのなかでも主に「ベンチャー」「クリエーター」「フリーワーカー」系の3つに分け られる。(この分野は全国で約600万人300業種あると推定している)

●言葉の定義は厳密ではないが、「ベンチャー」はもっともビジネス寄りで、当たり前だが組織系ビジネスマン以上に売り上げとビジネススタイルにはうるさい。組織拡大志向もあって、イケイケSOHO(笑)の典型でSOHOのことを信用していない節もある。

●逆に「クリエーター」は自己表現志向が強く、デザイナーといい、芸能関係者、デジタルソフト制作者といい、とにかく忙しくけんかっ早い(笑)。最も競合の激しい産業形態で報酬体系が無いに等しいこともあって、意外と体育会系プロダクションが強い。事務所も平均2年で移動するし、名刺だって1人で何枚も持つタスクチーム型 テクニシャンが多い。

●「フリーワーカー」は「ベンチャー」「クリエーター」両者のビジネス志向、自己表 現志向を双方合わせ持つ自立した建築家、編集者、コンサルタント、エンジニア、会 計士、弁護士など、いわゆる専門職で、大組織とSOHOを往復するタイプが少なくない。

「情報・サービス」分野のSOHOだけで、こうも傾向が異なるのだから、これに文字どうり旧来型の製造、卸、小売り、飲食、建築などの中小・個人事業者(約2900万人/総務庁統計)、さらに在宅主婦、フリーター、学生、中高年シルバー、在日外国人のSOHO予備軍( 推定約600万人)がデジタル化されるとなると、もはやSOHO(20人 以下の600万事業所/総務庁統計)のイメージは新日本人、あるいは「地球市民」と いったほうが近いのかもしれない。 
 SOHOはイメージのステレオタイプ化を嫌う。これは救いでもあるが、同時にSOHOの社会化の過程でアキレス腱にもなっていくだろう。

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●河西保夫(プランニングプロデューサー・SOHOギルド事務局代表)
「月刊SOHOコンピューティング」97年創刊号原稿より


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