レクチャーテーマ 情報とSOHOの未来
講師:河西保夫 (SOHOギルド代表)
はじめに
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SOHOギルドの河西と申します。本業はクラブハウスという企画・出版会社をやって おります。
80年代に、バブルに向かってユースマーケット、若者の市場が盛り上がった時代が ありました。学生援護会という「日刊アルバイトニュース」や、「デューダ」「サリ
ダ」を発行している会社がありまして、その子会社として84年に設立されました。 私自身はサラリーマン経験というのはなく、いきなり、当時学生ベンチャーとかカレ
ッジビジネスをやっている立場のまま、その関連会社の社長をやらされたわけです。 ワイルドビジネスと経済学者のP.F.ドラッカーが命名していますが、そういう瞬
間瞬間移り変わるユースマーケットの中での商品開発やプローモーション、情報発信 。さっき松田さんがおっしゃっていた噂関係も重要なトレンドでした。私も90年く
らいに「TOKYO RUMORS」という本を出し、当時、いとうせいこうさんた ちと一緒に消費市場のトレンドウオッチングをしたりしました。噂というと、実際ど
んなものが流布されているのか、集めてしまおうかと。そういう断片的な情報社会の リアルな、多くは消えて無くなっていくクチコミ情報を単行本としてまとめ、今まで
の5冊程出版しました。
さっきのケータイ文化というのは非常におもしろかったのですが、多分「消費文化 から逃れる構造」の中で、「消費されない文化」を発信している、個人的にはそうい
う気がしたのですね。さっき花王さんが質問されていた、マスコミュニケーション回 路と比較するとどうなのか、パブリシティとしての機能はどうなのだろうか、噂とい
うニュアンスの問題で非常に微妙な構造を持っていると思うのです。ただ、本業のマ ーケティング、プローモーションでは実は、ケータイやその前のポケベルとかは、か
なり「噂流布」という手法を利用させてもらって、家電さん、飲料とかは今もやって います。さすがにカレッジマーケティングの方は卒業させてもらって後輩の方に譲っ
ているのですが、そういう昔のスタッフが「プリクラ」「タマゴッチ」まど、女子高 生市場で実際に使っています。キーワードをシンボリックに流して、ある程度認知さ
せた上でマスコミがとりあげて、シンボリック商品認知の既成事実を作ってしまうの です。既成事実を作って、それをメディアで情報として流す。
コンビニエンスストアで「リーチイン」という手法がありますけれど、とにかく商 品を店頭に並べて、若い人に認知させる。手の届くところに置いておかないと、いく
ら良い物を作ってもマーケティングとして回転していかない。「3ヶ月マーケット」 という今の流通の宿命というか、構造を考えると、「情報消費」と「消費スタイル」
というのは切っても切れない関係がある。そういった意味では若い人が消費構造とは 違うところで、「存在証明」のための情報を断片的に発信しているというのは、非常
におもしろい、現代的な現象なのだなと思いました。
これからお話しするSOHOに関しては、2年ぐらい前からマスコミで取り上げられる ようになりました。まだ明確なSOHOという言葉の定義が学問的にはされていませんし
、今年の春にでた郵政省の「通信白書98」、それから国内で初めて出た「テレワー ク白書」という、国土庁、通産省、郵政省、建設省4省庁共刊で白書が出ていまして
、そこで初めてSOHOという言葉が取り上げられています。とはいってもですね、実際 にSOHOの研究を本格的にされている機関はまだ無いし、欧米のMITやEUの学者の
人たちも我々に聞きにきたり、我々も情報をもらったり、世界同時的に、今SOHOとい う言葉がとりあえずでてきて、概念を通じて現状を把握していこうというのが実態で
す。マスコミによって出される情報とか、イメージによって逆に、我々なりに定義し ているものが変わっていったりと、駆け引きが、まさに行われている現状です。 今
日はお手元に簡単な資料を用意しましたのでこれを元にお話をしたいと思います。
私の話はあっちにこっちにいったり、かなり飛んでしまいますので、特にSOHOとい うテーマだと、非常に何というのでしょう、どこから説明していけばよいのか難しい
ところがありますので、大雑把な概念の捉え方から、最後はオンビジネスの部分まで お話しできればと思っております。
●SOHOのイメージ
まず冒頭のページにのせているのですが、SOHOというと恐らく皆さんマスコミから
出ているイメージで、インターネットとかパソコン通信で仕事をしている人たちとい うイメージがあると思うのです。これが一番大きな問題で、「パソコン通信、インタ
ーネットビジネスをしている人たち」であるかというと、多分SOHO的な人は多いでし ょうが、あまり関係ないのですね。SOHOは文字通り「スモールオフィス・ホームオフィス」あるいS
OHOワーカーとか、SOHOスペースいう風にとらえるべきで、「オンラインワー カーである」という定義はないのです。とりあえずこの1ページ目では、博報堂さん
がまとめられたレポートからの引用です。これギルドが協力して作成しました。
インターネット、パソコン通信をツールとして使う「テレワーカー」を。SOHOと呼 んでおこう、とりあえず呼んでおこうと。その中で大手企業、中小企業、個人と組織
的な規模でで大中小と引いています。あと「テレワーカー」ではないけれど、小企業 であるとか、個人であるとか、いや空間組織的にスモールである人を、その予備軍として
引いています。ですから、たまたまこの時は、そういう世間的な動きに迎合するとい うわけではないのですけれども、どこかでデジタル化されている人たちをSOHOと呼ん
でおかないと、「従来の中小企業、零細と、どう違うのか?」となりかねない。そこ でこういう風にしたのです。これはとりあえず概念整理する場合に手っ取り早いのです。
コアSOHOは、SOHOのシンボリックなイメージがあった方が良いと思われるので、ベ ンチャーとか、クリエーターとか、脱サラして個人でやっているフリーランサー。そ
ういう人たちを称してSOHOという。主にマスコミなどでは、彼らのワークスタイルが SOHOとして、取り上げられています。究極的にいうと、大組織の分散化が「SO
HO化現象」ですね、90年代以降本格的に始まってきている「ピラミッドからネッ トワーク社会へのシフト」、「組織内を変えていこう」とか、あるいは年棒制にみら
れるような、経営面の変革ですね。あと従来は、外注という言葉で呼ばれていた「ア ウトソーシング」。機能の分散化とか外部化という、これは急に始まったことではな
く昔からあることなのですが、それを実質外部にいて、ときには傭兵として、ときに は外部社員として、あるいは外部ファクトリーとして動いている。まあそういった人
たちが、企業組織から見た場合のSOHOになる。ホワイトカラーの生産性の向上とかの 流れの中で、彼らが組織から独立していく過程がSOHOだという見方がマスメディアの
方、とくにNHK、朝日新聞とか、信頼されているメディアはそういった言い方が好 きなのです。ですから、我々も彼らが取材などでこられると、「組織からの自立化で
すよ」「独立化なのですよ」と。「世界はそういう方向に向かっていますよね。イン ターネットに見られるように…」という言い方をすると、まあ事例があるのでわかり
やすいのです。
インターネットが2、3年前にブレイクして、SOHO化のシンボル的中心構造に なりました。トフラーが「第3の波」といっていましたけれど、「コンシューマーズ
」は、「プロシューマース」゙という、「消費だけをする」のではなく、「生産的な消 費をする」。そういう新しい生活者になっていくでしょう。ここ20年間の、まあ何
というのでしょう、情報化社会のテーゼとでも言うのでしょうか、世界共通の、次の 時代のイメージ、そういうものにインターネット的なものはマッチングしているので
す。それを利用してフリーランサーの人たちというのは、「あ、これは非常にわかり やすい」ということで、たまたま今のマスメディアの中では、SOHOはそういう姿を通
じて、世の中に出てきているのだと思います。
ただ重要なのは、この図のなかで書いているのですが、大手企業の「サテライトオフィス」方がむしろ、通産、郵政、あるいは国が、各企業に経営効率の上ではテレワークとい
う言葉を通じて、90年代に入って、積極的に推進されてきている背景もあります。 SOHOが必ずしも組織的に自立している人たちであるかというと、そうではなくて、空
間的な意味、組織的な意味で、小さいというだけです。場合によっては公務員のSOHO がいたり、政治家のSOHOがいたり、ごく当たり前のこととしてあります。
例えば、僻地の国家公務員としての営林署の方とか、気象庁の方、あるいは最近問 題になっていますけれども、独立郵便局の人たちは非常にSOHO的ですよね。農協に属
している農業の人たち、非常にSOHO的なのです。ですから、SOHOというのが必ずしも ベンチャー、フリーランサー的な人たちだけを指すのではなく、たまたま受け入れら
れ易いマスイメージから、今そうなのであって、ベーシックな部分では、後でお話し しますけれども、もっと広い意味として捉えるべきだと思います。
「テレワーク白書」という、初めてでた白書があります。テレワークはSOHOとは切 り離せない言葉ですが、わかりやすくいうと、「場所とか時間を選ばないで仕事をす
る」。「ワーカー本意の効率の良い仕事をする形」をテレワークというのですが、ア メリカではテレコンピューティングといったり、テレコミュニケートという言葉で使
われていたりします。意味としては同じで、テレワーク、テレコミューティングとい うのは、論文だとか専門誌などでは、微妙に異なる概念だったり、組織的にも国際的
には系統が分かれていたりするのですが、社会的な意味としては同じです。テキスト にあるのは個人のニーズ、企業のニーズ、社会のニーズと整理されていますので、時
代背景として捉えておいて下さい。
1.SOHOの規模
では、具体的に規模が小さい、空間的に小さいからSOHOである。また、それがデジ タル化されていく現象がSOHO化現象と捉えるときに、だいたいどの程度の規模が、ど
ういった現象を起こしているのかをまとめたのが次のテキストです。
●中小企業とSOHO650万事業所のデジタル化
まず、今日ご出席の皆さんは日本を代表する大手企業の、組織の方たちばかりなの
で、通常、中小企業という、個人、零細規模の仕事場で働いている人がどの程度の数 がいて、どういう業種で働いているのか、普通は日常的に考える機会はないと思われ
ます。これはマスコミの人たちもそうでして、非常に重要な現実です。政府も含め、 多くの人は実態を知らないのです。今仮に300人以下を中小企業とします。定義は
各省庁によってバラバラなので、きっちりした数字は出しようがないのですけれども 、300人以下を中小企業、あるいは中小企業と、SOHOといった場合に、ここに書い
てありますように約650万の事業所がいま日本にあります。10人以下のSOHO でも約530万事業所というボリュームです。
●従来型中小企業、情報・サービス系の内訳
従来型の中小企業をここでは製造、卸などのグループとして指しているのですけれど
も、約3800万人くらい今就業されていて、我々がコアSOHOと呼んでいる情報・サ ービス系ですね、右下にその業種を書いていますが、比較的カタカナ文字系とか、弁
護士、設計士などの有資格者、サムライ業といわれる人たち。あるいはその経営、ベ ンチャーをしている人ですね。そういう人たちが、帝国データバンク95年を元に我
々が推定を出したのですが、20人以下の組織で、この業種で約600万人ぐらいが 、これはもちろん正しい数字ではありません。帝国データバンクさんも未法人に関し
てはデータを持っていないので推計でしか数字を出せなかったのですが、まあだいた いこれぐらいかなと。日本には業種、職種として認められているものが、最近総務庁
と通産省が改訂作業を21年ぶりに行ったのですが、5万5千業種ぐらいあるそうで す。当然その各協会とか組合といったものが、各業種すべてにはありませんから、実
態がつかめていません。
●在宅ワーカー、フリーターのSOHOとしてのとらえ方
左側の図の下に、在宅ワーカー、フリーターと書いてありますが、これが私の感じ
る、最近マスコミで良くクローズアップされるSOHO化現象のゾーンかと思うのです。 これはどう読むかというと、事業者にはなっていない、昔でいう家内加工業の形、い
わゆる雇用契約をするわけでもなく、受発注契約で明確な契約書を交わすわけでもな い、いわるゆ家内労働の形です。法的にいうと「家内労働法」という法律があり、日
本もILOが勧告をしているのですけれども、「最低賃金制」というのを導入しなけ ればいけないとなっているのです。ところが家内加工業、家内労働に関しては、上に
書いてあります、情報・サービス業のライター、プランナー、こういう人たちは対象 外になっているのです。つまり靴屋さんみたいに、素材、革をもらってきて、自分の
ところで加工して、製品にして、納品して、代金をいただく。それは「最低賃金制」 が決められているのですけれども、それ以外の加工しない、つまり加工する素材を購
入する必要のないものに関してはそういうものがないのです。つまり、ライター、プ ランナーとかこういう人たちというのは、加工労働者ではないです。家内労働者では
ないです。ですから、行政的な意味では法的な規定が一切無い。
−フリーランサーの現実
日本では有名になると、逆にマンションの契約が断られることがよくあります。そ
れは何故かというと、「純文学をっています」というと、「発行部数初版3千部ぐら いしかでてないでしょ、半分自分で買っているのでしょ」と嫌味をいわれたりして、
演劇をやっているとか、芸能界で仕事をしている人も同じです。あるいはそういう純 文学の賞を取ると、逆有名人になって不動産契約ができない、長期のロローンが組め
ない、といった現象があります。「フリーランサーは生涯年収の保証がない」からで す。今のように不況になってくると、日本では看板のしっかりした、大きな組織にい
る人たちが契約面において優遇される土壌がどうしてもあるので、イメージのところ ではベンチャーであるとか、フリーランサーは期待をもたれて語られることが多いの
ですけれども、実態としては金融の面であるとか、不動産の面、生活の基盤を維持し ていく上では、非常に厳しい状態です。実際の所は、こういう人たちがどのような実
態であるかは、詳しいデータを政府も持っていないでしょう。むしろ一般企業が消費 者として彼らを捉えるときに、マーケティングデータとしてリアルな姿を捉えている
ケースの方が多いのではないかなと思います。
−在宅ワーカー、フリーターの現実
在宅ワーカー、フリーター、これを何で一緒にしているかというと、在宅ワーカー
という人たちは事業者としての自覚がない人たちなのですね。SOHOというのはインタ ーネットなどでキーワード検索すると、8000サイトとか、URLでSOHOという記
述のあるものが物凄い数出てくるのですが、多くはそういう在宅ワーク、昔OLでキ ャリア系の仕事をされていて、ワープロもしっかりしている、誤字・脱字もない。し
かもギャラが高くはない。そういう人たちに、いわゆるそれなりのスキルが必要な単 純労働的な仕事がどんどん落とされて、実際情報・サービス系SOHOの業種の下支
えをしている現実があります。ですから、そこの部分を取り上げて、インターネット と在宅ワーカー、女性の社会進出ということで、SOHOが語られていることが多いので
はないかと思います。これは部分的なことであって、私個人としてはSOHO予備軍とし て見たほうがよいかと思います。実際はまだまだシャドーワークの部分が大きいので
はないかなという気がします。
●事業者としてのSOHO
この下に数字的なことは書いていますが、私がやっているギルドというところでは
、SOHOというのを「大企業のテレワーカー、独立した小規模事業者及び個人事業者」 と定義しています。あくまで事業者なのですね。「事業をやっている」ということが
重要なのであって、法人であるとか未法人であるとかはあまり関係ない。事業という のは必ずしも営利事業である必要はなく、オフィスという言葉がもともとそうであっ
たように、例えば「コミケ」という巨大なコミックマーケットイベントがあります。 専門的にマンガばかり書いている人。おたく的なコミックサークル、グループとかあ
りますよね。中学、高校ぐらいから描き始めて、社会人にもなってまだやっている人 が多いのですけれども、8万団体ぐらいある。そのうち、毎回抽選で2万団体の人た
ちが、晴海とか、有明に集まって、3万人、4万人集まって、さらに購入する人は2 0万人くらい来るのですね。2日間で7、80億ぐらいの売上があったり、巨大市場
になっているのですけれども、そういうミニコミ・コンベンションに出展する人たち というのも事業主なのです。
売上が上がれば税金がかかっていきますし、契約も生じてきます。日本には社会活 動をする、NPOが約18万団体あるのですけれども、そういう未法人の事業者がど
のくらいあるかというと、オフィスの数をカウントするという形でいくと、以下の様 な数字になるということです。スタッフ10人未満でも約531万事業所。労働人口
でいうと、これはみんな契約している社員として、これにはNPOも入っていますけ れども、1684万人。スタッフ300人以下、いわゆる中小企業のレベルでいうと
、凄い数字になるのですが、650万事業所。300人以上の事業所の数って、1万 ぐらいしかないのですよ。逆に言うと、99.8%の事業所というのが300人以下
の事業所なのです。人口でいうと、5044万人という数です。その中で、我々ギル ドが指摘しているコアSOHOが約600万人と推定できる。
最近国が出した数字では、テレワーカーが約81万人。それが2001年には約3 00万人へ拡大するといわれている。これにはおそらくSOHOの調査が入っていません
から、「組織人系テレワーカー」。いわゆる大手企業の中でテレワークを認められた 人たちの総計、モバイルワーカーとかは入っていると思うのですが、そういう人たち
が81万人いる。しかし、実際テレワークという言葉の規定から起こしてくると、こ の数字の根拠もあやしい。今インターネットユーザーが、のべ1千万人であるとか、
先ほどのケータイとかですね。テレワーカーは必ずしもインターネット、コンピュー ター通信をやっている人だけではなくて、ファックスを使ったり、電話を使ったりし
て仕事をやっている人もテレワーカーになりますから、この数字もあまりリアルな数 字ではないな、と私は思っています。
ざっくりですけれど、こういものがベースにありまして、ただこれを中小企業の経 営論の話とか、人口的にこれだけいるからと、いきなりいっても、非常に議論が整理
できない。混乱してしまう。あくまでこういう300人以下の中小企業、あるいはわ れわれのような20人、10人以下の本当の文字通りスモールオフィスをSOHOと呼んでいるの
ですが、その彼らがデジタル化される過程が、今のSOHOブーム、SOHOシフトという風 に、捉えようと思っています。
●社会全体のSOHOシフト
そうした私の見方を、毎日新聞がまとめてくれたのが、右上の図表です。ここでは
当然大企業の「サテライトオフィス化」、あるいは「年棒制導入」による大企業組織 、公務員を含むサラリーマンという人たちのSOHO化も当然含まれます。それは制度的
な意味で、今年、松下電器さんが導入されましたけれども、新入社員は、「退職金を 必要だ」とする人たちと、「20年間延べ払いにして先に下さい」という人に分けら
れる。あるいは、多くの金融機関、証券会社などもそうですが、年棒制導入。事実上 の、裁量労働制。こういう風なものは事実上、社員のSOHO化だと見た方が、いいと思
います。5年後、10年後の保証がない。それは毎年、毎年契約を更新していくとい う意味で、プロ野球の球団みたいなものですから、そういう意味で大企業、中小企業
、自営業、主婦、その人たちが自律的にネットワーク化、デジタル化されていくこと が、SOHOシフトだと捉えています。
2.2010年「デジタル新中世」的SOHOライフスタイルイメージ予測
次のページでは、「SOHOは2010年にどうなっているか?」。SOHO的なライフス
タイルを、社会は受け入れるのか。あるいは2010年の段階で、それこそ鈴木杏樹 のEメール婚ではないですけれども、ポケベル・ケータイからEメールに流れていく
、日常的に使いこなしていける若い人たちが社会の中核になっていく時代には、どん な新しい常識とか、社会的なトレンドが出てくるのか、簡単にまとめてみました。
●空間・意識のとらえ方の変化
まず、大枠で右端の方に、「テレワーク白書」にでている図を書いています。これ
は行政の方で出された図なので、テレワークを企業からではなく、SOHOからみる と、ずいぶんイメージが違うと思います。先ほどの話でもあったのですが、SOHO
では「その人がいる場所がオフィスになっていく」。これはSOHOでの重要な要素です 。「空間・意識革命」とでもいいましょうか。電話のあるところが情報発信源になっ
ていくのと同じだと思います。
−マルチメディア革命による情報発信の変化
従来インフォーメーション、メディアというのは、許認可権をいただいて参入者に
なるとか、放送局のもとで情報を発信していいよという人たちが、独占的にしている もので、さっき西岡さんから「クールか、ホットか」というご質問があったと思うの
ですけれども、もともと組織型メディアには「官製情報」というか、御上のカギ括弧 付きの情報をクールに出づよいう「不自由性」があります。これが工業社会の情報社
会論としてはベーシックな要素だったと思うのですね。クールにならざるを得ない。 中身、解釈はどうであれ、検閲された「布告」として出てくる。ところが、マルチメ
ディア革命のただ中にいる、脱工業社会の現在では、許認可はもう関係なしに、イン ターネットのように、日本語のサイトが100万URL以上あるのですね。後でお話し
しますが、1日20誌のMLマガジンが創刊されている。どこに何があるのかすら確 認できない状態なのです。情報発信できるその人がいて、電話なり、インターネット
で情報発信をすることが、マルチメディアそのものであるという風に、乱暴ですけれ ども極論をいえば、言ってもいいと思うのです。そう意味で、先程のプライベートと
パーソナルな情報空間が、カオス化していくというのは僕個人としては非常に気にな るテーマです。
●ビジネスにおけるデジタル化革命の影響
それを、今度ビジネスとか、公の経済活動に置き直して考えてみるとどうなるか。
これがSOHOと関係が深い部分です。ここの図では、あくまで大手企業の「ヘッドオフィス 」から、いわゆる「在宅勤務」であるとか、「立ち寄り勤務」ですね。あるいは、「
モバイル勤務」「リゾートオフィス」の活用を提唱している。2,3ヶ月リゾートオフィスで 働きましょうとか、ホームオフィスでお互いインタラクティブにチェックしあいながら、自
宅でも働いてしまう。こういった事例が本当に大手企業で取り組みをされています。 しかし、これは組織的に大手企業の中に属しているという人たちをベースに書くとこ
うなるのであって、これが圧倒的な先程の650万の事業所で同じ事が行われている のかと考えると、また違ってくるわけです。従来の「9to5」的な、自宅から会社
に出かけていく。産業革命のときに、自宅から工場に出かけて行って、9時に出勤し て当時12時間から18時間長時間労働していたのですが、そうすれば貨幣が入る。
それによって、商品経済社会が登場して、ある程度自由な生活を手にいれていく。そ の為に、教育を行っていくとか、文字を読めるようにするとか、効率よく成長させて
いくとか、近代国家のベーシックな部分ですけど、教育のメカニズム、そういうのが 登場していくわけです。そういう工業化社会の、トフラーがいう‘第2の波’の様な
世界ですが、それが今‘第3の波’的な(懐かしい言葉ですけれども)、そういうデ ジタル化革命のなかで、どういう風なものに変わっていくのか。それは一口では、や
はり言えない。ここで要素を断片的に整理してみましたので説明します。
●仕事・生活
−スペシャリスト志向、「手に職」型へ
まず、仕事・生活に関していうと、当然ですけれども「スペシャリスト志向」にな
っていくと思います。これは、最近チャンネルをひねれば、山一証券の社員がその後 どうなったか特集されたりしていますけれども、実際は大手企業の人たちだけでなく
、圧倒的な数の中小企業、零細、個人の人たちが今、報道されていないだけで、日々 そういう資金繰りとかに追われていますね。そこを救う手段というのはもともと無い
のです。結局生活レベルを落としながら、とりあえず「手に職」で頑張っている。当 然ニーズのある仕事というのはあって、どの分野も全くだめというわけではないです
から、例えばデジタル関係の仕事などは、人手が足りなくてしょうがない。そういう 分野に転業して「手に職」を持って仕事をやっていく。食いっぱぐれがないようにし
ていく。そういう傾向が非常に高まっていきます。
学校でいうとデジタルハリウッドさんでかには、かなり大きな企業も投資されてい ますし、いわゆる「親方」ですね、中世でいうところの組合、「伝統的なギルドのマ
イスター」。そういう技能を持った人たちに対する崇拝回帰みたいな現象は、実際に 起こっていくのではないかなという気がします。
−「マイスター/親方」崇拝への回帰
わかりやすい形でいうと、今のハリウッドビジネスですね。スピルバーグであると
か、世界的な親方の元にお金が集まっていく、そしてリターンがされていく。日本で いうと、小室哲哉さんですね。あるいは我々の世代でいうと、田尻くんですね。ポケ
モンをヒットさせた、ポケモン作者。彼は高校生の頃からミニコミでそういうような ことをやっていて、ポケモン関連市場は今年4千億円規模です。任天堂さんもそうで
すし、小学館、飲食関係ですとか、お菓子屋さんとか、ポケモンが無いとつぶれてし まうような会社がたくさんあります。当然そういうものは長続きするわけないですか
ら、ドラッカーのいうところの「スカンクビジネス」。瞬間瞬間を維持していくマー ケットでしかないのですが、そういう一部のマイスターのような人たちによって、作
られていく市場があることも事実です。そういう人たちへの崇拝とか、自分もそうい う人たちと同じように、手に職をつけていこう。あるいは、自分のセンスを磨いてい
こう。そういう様な傾向が見られます。
−脱組織「自由な私」「自分らしさ」を重視する“オレ主義”
そういう意味では先程もポケベル・ケータイ文化でも指摘されていたのですが、自
由な形、自分らしさというもの、最近「俺主義」いったりするみたいですけれど、ま さに「ミーイズム」ですね。非常に自己中心的な情報発信、そういうふうなものが強
化されていく。特にホームページなどを見ていると、マニアックな価値観といいます か、他の一般人から見て評価できるものは少ないと思います。ある程度の「場の中で
生きていく価値」があれば良く、全体に価値を押しつけていく必然性がない。ですか ら、他人から見れば無価値であったり、マイナスだったりするものでも、それは同じ
価値として、等価として認知しない限りは、お互いに存在できない。少し難しいので すけれども、そういう「相互認証」ルールがあるような気がします。
−リスク・ベンチャーが尊敬される“ドリーム・キッズ”
あと、ドリームキッズではないのですが、リスクを侵してベンチャーをしていこう
という、当然そういう人たちがいないと産業は維持できないですし、モデルが出てこ ないですから、今後もそういう人は残っていくと。それと多くの人がリスクを侵して
成功できるわけないので、多くの人は「なすがまま」というか、「タオ」(道)です ね。ビジネスワークのために、自分らしさを無理して壊していくのではなくて、自然
にナチュラルに生きていこうではないか。最近の自然志向ですとかも、当然そのあた りに共通性がある、共存してくるのではないかなという気がします。
−居住意識革命
以下、これを一つ一つ説明しているとキリがないので省略しますが、いずれにして
も工業化社会が作った、「会社文化、工場文化」というものが大きく変わっていって 、例えば物理的な、具体的な事例でいうと、「会社に行かないで自宅で仕事をしてい
く」、自分の「自宅の中に職域」を作らなければなりません。どこを職域にするか、 それが非常に大きな問題になってくるのですけれども、女性の場合だとキッチンなの
です。キッチンワーカーといったり、SOHOではなくDO(ダイニング・オフィス)と いったりするのですが、ダイニングワーカーですね。男性の場合ですと、書斎という
のがある。大前研一さんなどもいっておられますけれど、「電脳書斎」ですね。「電 脳書斎」に対して税制措置をすべきだというのですけれども、女性の場合はそういう
書斎すらない。
自宅でのシャドーワーク。シャドウワークをしているそういう人たちがSOHOを充実 していって、多少でも副業的に収入を得て、だんなさんも自宅にいるのであれば、「
共生型の子育て」をしていこうではないか。私もそうですが、そういうような試みが 結構、フリーランサーの人たちなどでは多いのです。そいうふうにしていくと、自分
たちの住んでいる場所というのを重視していかないといけないので、「SOHOハウス」 も重要になる。建坪率を緩和した新しい欧米並の「居住空間意識革命」のようなもの
がおこってくるだろうと。実際に国土庁が97年の秋にだした、光ファイバーを敷設 して各自宅にファイバーを入れ込むという、「5全総計画」がすでに国策化されてい
ます。「日本列島改造論」ではないですが、都市近郊や過疎地にも「SOHOタウン」を つくろうと構想している。現実的にはそこまでのことができるのか、財力は、ニーズ
は本当にあるのかという疑問はありますけれども、こういう風な流れが実際に今ある と思います。
●社会・経済
−「国民的意識革命」の必要性
以下社会・経済のところでは、かなり極論的なことを書いているのですけれども、
例えばシルバーゾーンではどうするのかとか、SOHOの人たちは年金がなかったり、退 職金がなかったりしますから、今40代より上の方で、多くの方がSOHOとして自立さ
れるか、それとも組織を転々とされるか、それを選ぶわけで、これは国民的な問題だ と思います。SOHOとして生活をしていくというのは、常に仕事をずっとしていかなけ
ればいけない、仕事を辞めて「無収入活動でもいいや」と腹くくるのであれば良いの ですが。それこそなすがままの「タオ」ですね、老荘的に生活するのだと思うのであ
れば良いのですが、多くの人が食べなければならない。極論をいえば、死ぬまで働け なければならない世界が実際目の前にあり、年金制度はほとんど崩壊といわれていま
すが、シビアな、現実が突きつけられることによって、大きな「国民的意識革命」が 起こらざるを得ない、というような気がします。
−「自由と制限」のなかでのSOHOの選択
それがどの方向に流れていくかというのは、ちょっとわからないのですが、大雑把
にくくっていうと、勝ち組、負け組という議論がSOHOにもあります。いわゆるSOHOは 「自由と制限」の中でやっていく。SOHOは今までもそうでしたし、今後も変わらない
のですね。まれにSOHOがベンチャーとして、ブレイクして1万分の1とかの確率で5 年後、10年後大きくなっていく会社も出てくる。うまく株をうって切り抜ければ、
元アスキーの西さんみたいにならないかもしれない。なかなかそれは資本主義ですか ら、成功してもそれをうまく維持していくのはかなり大変だろうと。こうなっていく
と勝ち、負けにこだわらないのですね。「等身大の経済社会」を自分たちで作ってい く方がよいのではないかという、SOHOの哲学です。これはオタク論を展開されて
いる岡田さんも言われている、「死ぬまで遊びと学習をしていく、NPO型の組織論 」。いわゆるオタクサロンのような、「非経済型の事業」がこれから主流になってい
くのではないかと。私も何となく、それはそうなのかな、という気はしています。
−SOHOで何をするか
SOHOの人と接していると、私自身もそうなのですが、まず「何でSOHOなのか」とい
うと、必ずしも経済活動ではないのですね。生活をする上で経済活動はしなければい けないのですが、利益を上げていこうとか、組織を拡大していこうとか、「成長して
いこうという幻想」は9割以上の人が持っていないのですね、まず。上場していこう という意識を持っている人はベンチャーと呼ばれますね。ところが、ベンチャーと同
じ事をやっているSOHO事業者をも、ベンチャーとは言わないのです。つまり、「 これは、自分が好きだからやっている」。マンガを描きたい人が漫画家をやっている
のをベンチャーとは言わないですね。ところが、結果として恐ろしいほどの版権ビジ ネスというのをされている方もいらっしゃいます。それはあくまで結果なのであって
、例えばポケモンをヒットさせた彼が、上場をするためにプログラムを動かしている か?音楽市場の30%をシェアする小室さんが、ベンチャーと呼ばれているか?多分
、欧米の「ロック債券」のように、小室さんが「小室債券」を出せば、恐らく相当な ものが入ってくる。事業家として新しいマーケットを開拓していこうと、マードック
と一度組んで、衛星チャンネルを、開拓するというようなことをやっていましたけれ ども、それはあまり本気ではないですね。あくまで、自分の音楽を作っていくという
のが、彼の仕事でしょう。ですから、そこが従来の工場型の資本主義とは少し違うの ではないかなという気がします。あくまで等身大の個人、そこから経済、マーケット
が始まる。
●急速に進む世界同時進行のSOHO化現象
これは世界同時の現象で、右下に参考に書いてあります。たとえばアメリカの場
合ですと、全米の家庭の44%が、ホームオフィスによる収入活動を今現在行っていると。
自営業という意味でのホームオフィスがアメリカでは、4700万人。そのうちフリーラン サーでやっている人が2430万人、未法人でやっているわけですね。それからあと
、マーケットなのですが、通信業界、多分ソリューション関係の業界だけで、SOHOマ ーケットは約50兆円ぐらいであるというレポートなどもでています。
日本の事例ですが、「まぐまぐ」という、「インターネット専用の本屋さん」と書 いてありますが、紀伊国屋さんとトーハンさんを合体したような、いわゆる電子出版
の為のセンターがあります。これは、97年の2月ぐらいに参加していたメーリング リストで、大川さん(現代表)という京都の人と、深見さんという滋賀県に住んでい
る人が、SOHO&ベンチャー系のメーリングリストで話をしていたのを憶えています。 京都府が作ったSOHOサポートセンターを拠点にして、その夏に「まぐまぐ」という、
自動エントリーの、メールマガジン発行人と誌表が自由に登録できるセンターを開設した のです。どいうシステムかというと、メールマガジン(大半は無料)を読みたい人が
、そこにいって、何千種類ものリストから、読みたいメールをチェックすれば、日刊 だったり、週刊だったり、不定期刊だったり、テキストメール形式で、いわゆる自分
の好きな分野のミニコミが送られてくるものです。
開設1年で、登録者が「まぐまぐ」さんだけで、延べ300万人を突破しています 。今どれくらいの媒体が出ているかはっきりわからないのですが、「まぐまぐ」に紹
介されている媒体だけで、役6000誌(98年秋)二日に1回「まぐまぐ」のカタ ログが(80万部・98年秋)配信されてくるのですけれども、新創刊ガイドが30
くらいです。ですから、インターネット全体では1日20誌ぐらいは日々創刊されて いるわけです。これは、「じゃあビジネスベースでやっているのか」という、そうで
はない。情報を発信したい。自己表現をしたいのであって、ビジネスは結果なのだと 思います。先程のコミックマーケットと同じですね。日本語のURLが100万ぐら
いあって、だいたい10万サイト(番組)、3600万ホームページあるといわれて いるのですけれども、その多くというのが当然そのミニコミであったり、趣味的なも
のであったり。中には、個人の日記を公開しているメールマガジンや、WEB、ホー ムページがあります。そういう日記だけをリンク集したサイトがあったりします。か
つて有名だったものに、「通産省の裏庭から」というサイトがありまして、これは現 役の通算官僚の人が、騒ぎの中、日記を書き続けた。厚生省の騒ぎがあったときも同
じようなものがあった。そういう組織を越えた、人間がいる場所自体が、既存のカテ ゴリーを越えた情報発信の場になっている。これを何という風に呼ぶのかというと、
これも一種のSOHOなのだと思います。
−SOHO関連雑誌の内容及び読者層
SOHOの概念をとらまえたときには、非常に整理の仕方が難しいのですが、月刊誌で
「SOHOコンピューティング」という雑誌が、97年の秋に創刊されました。これは「 SOHOをするにはどういうコンピューターでLANを構築したらよいか」とか、インタ
ーネット通販ショップをする人が多いので、「どういう風にサイトを運営しているの か」とか、「どうすれば人が振り向いてくれるのか」、そういうノウハウもの充実の
マガジンがあります。「公的資金をどうすれば借りることができるのか」を連載マン ガにしたり、少し堅めの本なのですが、最近の特集には、「女性のSOHO」「在宅ワー
カーの人が、SOHOとして自立はしない、ただ、社会に参加するためにSOHOとして、ど う社会参加すればよいのか」。例えば、「子育てをしながら社会参加をするうえでど
のようなノウハウがあるのか」、そういう風な特集があったり、「サラリーマンしな がらSOHOするにはどうすればよいのか」これはかなり売れている良い特集でした。だ
いたいこの媒体は実数で、5.7万部ぐらいなのですけれども、読者の8割が現役の サラリーマンであって、SOHO読者より多い。「いつかは自分もこんな生活をしてもい
いかな」という感じで、なんとなく読んでいる。動機としては、いずれ田舎に帰って 家を継いで、「田舎でもインターネットでしごとができるのかなあ」ぐらいの、そん
な漠としたイメージの方が、勉強で買われているケースが多い。
●SOHOが必要としているサポート
そういう人たちにとって「何が必要とされているのか」、ここで我々が登場してく
るわけですが、昔からSOHOは、ある意味ではあったのですね。今に始まったことでは なく、産業革命以前の巨大オフィスができる以前の、仕事のスタイルというのは非常
にSOHO的です。マニュファクチャーといったほうが良いと思うのですけれども、現代 のデジタルによって、非常に自己本位的な仕事の仕方ができるようになるのであれば
、「新しい中世の時」に突入するのであれば、その人たちに必要とされる、私たちの サポートというのもあるだろうと。われわれギルドが提唱したのが、「SOHOの為のエ
ージェント、これを作るべきである」ということでした。最初はSOHOという言葉がな かったので、「ギルド・ジャパン」と呼んでいました。例えばSOHOというテーマでコ
ンベンションをするとしたら、どのようなテーマでできるだろうか、どういう人に声 を掛ければよいだろうかと。
−マネージメント
この図の真ん中の方にマネージメントとありますけれども、SOHOにとって一番必要
なものが何かというと、信用保証、「与信」なのです。企業でいいますと、大蔵省の 有価証券法で、法律で義務づけられているように、企業が社会的に何をやっているか
ということは公開されなければならない。よくいう情報公開ですけれども、株式市場 でチェックされるわけです。「会社四季報」でその経営規模や、状態はわかるわけで
す。外部の人が株を買うことによって、組織を維持、その組織のコントローラーにな ることもできるのです。そう意味では、組織構成をしっかりやっていけば、株式会社
も便利な組織として機能できる。ところがSOHOは、必ずしも株式ではなかったり、あ ったとしても上場させて、株を売買させようとはあまり考えない。
欧米型の法人がそうです。有限会社が多かったりするのです。有限会社、一族経営 であったり、ファミリー型で、なるべく情報を公開していない。家業という形もそう
ですけれども、なるべく公開しないで、自分たちの利益集団だけで、ギルド的なネッ トワークを作ってですね、利益を保全していくのです。それを代々引き継いでいく。
伝統にしても、技術にしても、あるいは商売のノウハウにしても、利権もそうですね 。そいうふうな形態がもともと資本主義的なものであった。
日本の場合はちょっと特殊で、大手は株の持ち合いが多い。法人というのもお互い に株を持ちあっていますから、個人所有者がいない「法人格」という、得体が知れな
いもの、「カイシャ」という人格がお互いの株を持ちあっている。逆の意味で中心が ないですし、お互いに責任もない。非常に奇妙な日本的連鎖構造がある。けれども、
株が公開された企業の場合は、与信証明というのは明確ですね。例えば「NHKの職 員です」といえば、だいたい何者であるかわかるのです。ところが私が「クラブハウ
スをやっています」といっても、何者であるかわからないわけですよ。クラブハウス という言葉からでてくるイメージで、判断される。あるいは「自分は今までこんな仕
事をしてきました」、ということで説明する。実は私の場合、自分の仕事を紹介する ときに、出版という言葉を使う。「出版会社をやています。‘SOHO独立開業ビジネス
の素’という本を最近出しました。朝日新聞で紹介されて、今4刷で好調なのですよ 」といえば。まあ「出版屋さんですか」ということで、とおりがいいのですね。とこ
ろが「マーケティングというのをやっているのですけど」「最近の女子高生マーケテ ィングで、口コミで…」ということを話すと、まあなんというか、少し軽く見られる
。ましてや芸能関係のコンサートやイベントの仕事とか、ゲームというと、もうビジ ネスではないという顔をされる。(笑)「あ、そう。」みたいな感じで、ノリはよい
のですが、そういう社会の中でまず、評価が安定していない。そういう業種というの は、SOHOは依然としてあって、伸びている業種こそ動きも激しいでしょう。そう
いうのが、まだまだ一般の市民感覚ではないかなと思うのです。ですから、SOHO問題 を語るときに一番本質を伝えやすいのは、冠婚葬祭の場に出たときに、SOHOの人が自
分をどういう風に表現するか。多くの方が自分を卑下していると私は思っている。大 組織の取引先なり、つきあい先の人が登場されて、そういう人たちに暖かく見守られ
ていて、自分も成長させていただく、という言い方をするのです。単なる謙譲ではな く、「自己証明」ができない苦さがある。
−SOHOにとっての「与信」「保証」の必要性
欧米の人は違うみたいですね。「自分は組織から自立して、これから自分の夢を作
り上げていきます」そういう風に挨拶をする。そこには非常に、日本的風土の中で組 織を語るのとは違う特徴がでていて面白い。この問題は、SOHOブームがあっても、「
あっ、そうか」という風に、SOHOに対する不信感が消えるものではない。ですか ら、「与信」とか「保証」というものをいかに作り上げていくかが、ビジネスを語る
上でも、重要だろうと思います。当初、2年くらい前に我々が言っていたイメージは 、組織的には「農協」です。「農協をイメージして下さい」。農業をされている方は
、みんなSOHOで自立してバラバラですけれども、農協という巨大組織というか集団が 、銀行としては何位ですか、第4位、5位ですね。流通組織としてどれだけ売上があ
りますか。とんでもない売上がありますね。生協でもいいですね。生協というのは、 小売りでいうとダイエーの約2倍の売上を持っていますよね。個々の生協は今、弱か
ったりしますけれども。いわゆる「売りの完結」というか、「自分たちのことは自分 たちでやっていこうではないか」。マルチメディア社会にふさわしいネットワークを
、例えば「全国SOHO事業協同組合」みたいな形態であるとか、他の方法でも良い のですが、「巨大な信用創造を与える器」を、作り出していけないだろうかと。そう
いうことで、我々ギルドも、注目もされましたし、実際に色々な企業が、今参入され ています。
−デジタル&ネットワーキング
このテキストでは、ビジネスの話をするよりも、そういうSOHOにとってどういうよ
うなものが必要か、逆にいうと、SOHO社会にとってどういうマーケットが伸びていっ て、マーケット自体がどう変わっていくかということも指しています。図でいうと右
側の方に「デジタル&ネットワーキング」というカテゴリーがあります。これは従来 でいうメディアになると思うのですが、SOHOとマルチメディア社会では、メディアと
いう伝達するための媒体が、そのまま販売セールスに直結している。 ホームページが良い例なのですが、ホームページというものがバーチャルなショップ
として存在していれば、そこにデジキャッシュなりクレジット機能がついていたり、 「EC」という実際のオンラインバンクとしても機能している。これは、よくいいま
すけれど、宣伝という行為が「伝販一体となり、情報自体が物のセールスという機能 に切り替わっていくことです。
ですから、ここに書いてある例えば、「SOHO電子政府サービス」も象徴的なものと して重要です。これは何かといいますと、今でもSOHOとか、そういう人たちに対する
公的支援サービスというのはあるのですね。自治体だけで3000あって、窓口が2 万、3万もあるような、色々なサービスが、何万種類も実際行われています。ところ
が、それがどこにあるのかはわからないのです。特殊法人から、それは役割機構の弊 害で、政府内でもわからないのです。実際サービスが開始されて2年たって、予算消
化後、出口の会計監査院あたりでやっとわかるのですけれども、それでは我々SOH Oにとっては「何の意味も無い支援サービス」と同じです。恐らくかなりの大きな予
算とか、サービスが無駄になっている。
子供がそろそろ成長したので託児所に子供を預けてお母さんが、SOHOとして仕事を 始める。そのときに育児所、託児所情報を調べようとしたときに、地元の区とか市町
村の窓口で基本情報を得たりはできますが、関連する情報がどこにあるか。役所には その情報というのは無いのですね。マスメディアでは細かいエリア情報とかは、教え
ない。ところがインターネットでキーワード検索エンジンをはしらせれば、民間の業 者さんから色々な企業からのサービスがチェエクできる。仮に「SOHOサイバー政府」
とネーミングしてもいいと思うのですが、SOHOサイバー政府でユーザーが、検索して でてきた情報を、SOHOサイバー政府が、既存の縦割官僚機構を超越して提供した情報
であると捉えるのです。捉えることによってそこにサイバー政府エージェントとして の「SOHOのための新しい組織」が生まれてくる。
ちょっと、理解していただけないと思うのですが、インターネット社会、マルチメ ディア社会、さっきの電話社会もそうなのですが、パラダイムの本質はあくまで「ミ
ーイズム」なのです。「自分が中心」なのですね。自分のまわりにマッピング、地図 がある。政府があって、企業があって、ファクトリーがあって、自分が末端にいると
いう感覚がないのですね。自分がいて、自分のまわりに自分の好きな物とか、嫌いな 物がある。いくつかあるものの中に、その中にかろうじて、公的な政府があるという
構造。そういう新しい地図感覚が、恐らくSOHO社会、メディア社会、もっといえばデ ジタル的な都市や国家の新しいイメージとなっている。「新中世」といってもいいの
ですが、社会の常識になっていくのではないかな、と個人的には考えています。
ここで、整理してみます。まず自分を宣伝していく、PRしていく「イエローペー ジ機能」サービスを持っているホームページがありました。仮に20くらいありまし
た。じゃあ、そこに登録しましょう。今、ありますよね「一発登録」、登録をさらに 代行するためのサービスが、そういうのがあるのですよ。検索エンジンだけでもYa
hoo Japan(ヤフージャパン)をはじめ、日本語の検索サービスが300ありま すから、300にいちいち張り付けることができないのですね。それをすべて代行し
ていくれる、「一発登録」屋さんというのが登場していたりする。あるいは自分のワ ークスキルをPRエージェンシーしてくれる、「SOHO登録」屋さんみたいな業者もた
くさん登場している。同じように自分のサイトに自分にとって都合の良い情報を、提 供してくれる人や、企業をリンク集にした自動編集サービスの「ポータルサイト」が
、とても注目されています。それはリアルの世界でもそうですけれど、自分に都合の 良い情報というのは入ってきますよね。都合の悪い情報は切ってしまいます。ですか
ら今、サイバーのせいかいでは、常識が無くなっていると言われる。「異様に自己中 心的な情報社会」。自分を中心に情報を発信していく。他から寄せられる情報は自分
がセレクトする、チョイスする。そういう情報社会は、「情報レス社会」でもありま す。情報が多すぎては、逆に意味がない。意味のない情報は情報でないですから、情
報をどんどんカットしていく。そういう意味での、新しいメディア構造が生まれよう としているのです。
●SOHO市場の展開イメージ
それは、そのままマーケットと連動しますから、次のテキストをみていただくと、
恐らSOHOマーケットというのはこういう形で今後どんどんブレイクしていくので はないかなと思います。
−SOHO事業所支援
今、SOHOに関する市場開発の研究というのは、私が知っている団体、研究会では2
0から30位あります。多分自治体なども個別で、色々制度などを作られたりしてい るので、ある人によると日本だけで、200ともいわれているのです。マーケット規
模というのを推測するのは非常に難しい作業なのですけれども、2番目の囲みフェー ズのところに書いていますが、一応10人以下の事業所を、SOHO事業とした場合、平
均5.2人のSOHO事業所が使っている年間の損金勘定ができる事業所維持費用は(人 件費を除く)、平均して約500万円ぐらい。あくまで仮定ですけれども、500万
ぐらいにすると年間、26.5兆円のマーケットが今現在ある。私の事務所はスタッ フ3人でやっているのですけれども、バーチャルスタッフ的なブレーンというのは2
0人、30人は当然います。
例えば今プローモーションの仕事とかは、こういうご時世ですので厳しいのですね 。例えば数年前の、東京ドームさんあたりで、非常におもしろい仕掛けの仕事をさせ
てもらっていたりすると、数億というお金が動きます。一人でもマーケティングに関 与して、何千万単位の受注がある。ただ、それが常時続くわけではないですね、SOHO
の場合は。瞬間あったり、なかったり。この年は非常に大きい金額、「5億円ぐらい ありました」。ところが翌年それが続くかどうかはわからないのですね。系列でもな
んでもないですから。そうなった場合は固定費が大きいと、非常に経営的にはシビア なのです。人を10人雇っていた場合、無駄なお金が年間で何千万もかかる。それを
カットするために、いまSOHOの人は、かなり組織をバーチャル化的して、事務所も小 さくする、自分の自宅にしてしまう。その代わり自宅を大きくする、設備投資をする
現象が動いています。500万円というと非常に小さな金額なのですが、最低ミニマ ムで見積もってもこれくらいのお金がいる。支出内訳は、銀行でいうところの、ファ
ームバンキング、ホームバンキングというものであったり、与信関係のコストであっ たり。あるいはSOHOハウジングの家賃やローンです。最近インターネットなどですと
、ISDN対策であったり、専用回線を導入した、SOHO型マンションも増加しています。
引っ越しや、SOHO住宅のリフォームなども。
−SOHOライフ支援
あと小売・流通関係でいうと、プラス社の「アスクル」。よくSOHO市場の成功
事例で語られますけれど、ファックス、コピー機のOAサプライ。コピー用紙を頼め ば翌日配送していくれる。そういう風な「安近短」なデリバリービジネスが非常に盛
んなのですけれど、すでに30万社をネットワークしたアスクルさんのようなものが 、典型的なSOHOサポートビジネスではないかなと思うわけです。ギルドでも、最近は
自分で赤坂にSOHOアンテナハウスを開設して、SOHOサポート市場活動をモニター チェックしています。
例えば今コンビニエンスストアが、マルチネットワークビジネスをされている。端 末で注文を取って、5万種類くらいの商品がカタログ購入できる。インターネットユ
ーザーやSOHOの中継基地としてのコンビニエンスストアの機能を作り出している 。リクルート系のポケモンの仕掛けをしたメディアファクトリーさんが、ダイエーの
ローソン5600店舗で、Loppiというのをやっているのですけれども、500 人規模のオーダーがあれば、商品をOEMで作る。これはいわゆる「ポパイ」「ホッ
トドッグフプレス」とか、ああいうところにでてくる100ロットぐらいしか、作ら ないSOHOや若者向けイメージ商品を、コンビニエンスストアで注文があれば作り
ますよ、とまあそういう風な、「One to One」ビジネスですね。もちろん アスクルのような一般消費財を当然扱っていたり、写真集を扱っていたり、いわゆる
手に入りにくい財をあつかっているのですけれど、最近はコンピューターまわりに各 CVSは力を入れている。10円メール、ポケットメール、ああいうモバイル端末商
品というものを扱っています。
我々もゲーム会社のショッピングサイトというのを受注・運営しているのですけれ ども、今、受注という言い方をしなくて、24時間Webですので、「Webマスタ
ーをする」という風に言います。我々の場合、日本語と英語でやっているのですけれ ども、300とか400というタイトルを作る。新商品というものは時期ものですか
ら、長野オリンピックの前は、長野オリンピックがらみの商品をプッシュする。その 後は、ワールドカップ関係の商品をおとしていく、強化する。強化するというのは、
Web上比重を強め、プッシュする。そうすると当然、売上が上がるわけですね。コ ナミさんクラスでネット下院が8万人。問題は、どう物流を動かしていくか。98年
の3月までは、コンビニがそこまで参入していなかったので、だいたい「代引き」と いうのが主流でした。クロネコさんみたいなところに頼んで、そこが持っていって、
例えば高校生が注文していれば、お母さんが「文句を言いながらでも」払うとか、そ ういう形でやっていたのです。ところが98年の3月以降は、急にユーザーの5割が
「コンビニ後払いシステム」を採用しているのです。結局、注目されるほど、ECや オンラインクレジットとかは使われないのです。まあ、ゲーム商品、CD−ROMだ
からというのもあるのでしょうけれども、5割の人がコンビニエンスで商品を受け取 る、そういう形態です。これはアスクルみたいな新しい流通システムが登場すること
によって、刺激されて既存の大手流通が動いている。カテゴリキラービジネスという か、そういうトレンドが各方面で急速に拡大しています。
−SOHOと税の問題
そういうことは今後、個人の「ライフスタイルマーケット」に関しても、当然起こ
ってくる。つまり、SOHOというのは重要なことですが、「法人会計と家計が融合して いる」ことが多いのです。自分が自宅で八百屋さんをやっていると考えてください。
昔マンガで「モーレツ ア太郎」というのがありました。そのモーレツア太郎がです ね、子供だてらに商売をさせられている。お父さんいないから、するしかない。その
日の売上でもってその八百屋さんが、何かを買ってきてそこで食事をする。デコッパ チというアルバイターがいる。その弟分に店を任せてニャロメと一緒に沖縄旅行に行
く。そういう風に彼らのSOHO的日常をイメージしていただきたいのですけれども 、そのとき出入りするお金に関しては、モーレツア太郎にとっては「すべて自分のお
金」なのです。
よく税務署が、SOHOの税務内容を50%しか把握できないといいますね。結局、ど うしてかというと、どこまでが公的なお金で、どこまでが私的なお金か、SOHOは曖昧
なのです。企業の場合は会計監査等、色々はいります。もちろんSOHOでも法人企業で あれば、当然チェックはされます。ただ、売上が小さい場合税務署もそんなに細かく
言いませんから、特に税理士を置かないで自分で、申告に行く場合は、税務署の署員 も、彼らもビジネスですから、税金とれないような所は相手にしないのです。「おた
くはもういい」と「これぐらいでよいですから、税金だけちゃんと期日に納めて下さ いよ」と。赤字申告をしても、「ああ、そうですか。大変ですね」ということで済ん
でしまう。ところが、実際の所はみんなうまくやっている。ですからこの問題は、今 後社会全体のSOHO化が進展すると、行政や自治体からみると非常に深刻な問題に
なっていくでしょう。サラリーマンが自宅で仕事をして、副収入を得ても、申告され ないケースが多い。これからいわゆる大きな組織は、いよいよ難しくなっていきます
よね。
−自治体におけるSOHO政策の今後
特に自治体からみれば、大きい組織や工業団地を誘致してそこで税収をあげようと
いうのは、ことごとく70〜80年代は失敗しましたから、それは考えていない。自 治体が今後も独立してやっていこうとするためには、SOHOを誘致していくしかない。
ですから有名な「三鷹市SOHO都市宣言」とか、高知四万十川とか、色々なところでS OHOプロジェクトが動いていますけれども、SOHOの方に来ていただくためにはどう
すればよいか。法人税を落としてもらうためにはどうすればよいか。あるいは、地元 の人たちが他のSOHO都市に流れないで、地元に住んで、そこで住民税・法人税を払っ
てもらうにはどうすればよいか、ということ真剣に考えます。そうなると、各地域に SOHOセンターとか、先ほどいったテレワークなどの、サービスセンターを作らなければい
けない。そういう背景もあって、国土庁や各省庁が旗を振って、各家庭に光ファイバ ー敷設をあおっている。98年の夏、野中自民党幹事長代理(当時)がぶった、16
兆円の緊急経済対策費のうち、当初の予算というのは、光ファイバーを敷設するため に使おうとういうことだったのです。あの時は、そういう風にならなかったですけれ
ど。国がテレワークやSOHOを推進せざるを得ないことは自明です。
( *注・その後98年11月に「テレワーク推進」が閣議決定される)
ですから、形はどういう形になっていくかわからないのですが、いわゆるおおもと の政府にしても、自治体にしても、個別の企業にしても、マーケットの形成の仕方が
そういう形になっていくだろうと思います。ところが、今でもブラックボックス化し ている、個々専門的領域が、SOHOというスキームで、もう一度再整理されるためには
、膨大な時間と作業がかかる、のではないかなと個人的には感じています。ですから 、農協的なもの、生協的なユニバーサルなサービス組織コンセプトを導入して、組織
を作って、そこで自主管理的にマーケットを運営していこうというやり方を、すでに 各組織がやっています。
例えば、労働省は、KSD財団というものをやっています。KSD財団の元に、系 列株式会社が今30社ぐらい登場していますが、これは100万人会員の、SOHOとい
っても主に、農林とか水産、いわゆる比較的古い産業、第一次産業の人たちの、ため のものです。また、ベンチャーリンク社という会社が、今10万法人を126の金融
機関と共にサポートしている。内30%ぐらいがSOHOといわれています。最近はこう いうものも一種、先行するSOHOサポートネットワークと、我々は捉えています。
●ギルド&SOHOのネットワーキング・チャンネル
次のテキストでは、そういったマーケットの流れの中で、どういう風なネットワー
クや、チャンネルがあるかを整理しています。この中では小規模な「SOHOサポー ト博」みたいなものから、月刊誌、メールリングリスト、メールマガジンといったよ
うなものもかなりでてきて、SOHOをサポートするためのビジネスのスキームには、「 ワークス」仕事ですね。それと「マネー」、これがやはり重要です。よく個人資産1
千百兆円マネーといいますが、こういった1千百兆円のうち、50%くらいは実はSO HOの事業資金。SOHOの経営者の人たち、そういう人たちの個人資産は、イコール金融
機関からみれば、事業資産だという説もあります。リスキーな担保用件として、50 %くらいは個人資産であって、必ずしも固定的なお金ではないのではないかと。ある
いは、ハウジングローンなどを組んでいった場合、実際は使えないお金だったりとか 。マネーに関する部分は大きいですね。さらにSOHOの場合退職金とか、年金は非常に
弱いですから、かえってビックバンによって、SOHOは一番投資効率の良い投資金 融商品に運転資金と、老後に対する投資を預ける可能性が高い。そういう意味で、僕
らに問い合わせが多いのは、国内の金融会社ではなく、外資系です。生保系の方も聞 きに来られたりします。
あと、「マーケティング」ですね。インターネットによるオンラインショッピング のようなものから、「B to B」「B to C」ダイレクトマーケティング
、コンビニエンスストアなどを通じた、ハブ的な新しい流通チャンネルです。あと、 個別の共同購入といったものがでてくるでしょうから、「サービス」ですね。個別SO
HOの人たちが、自分たちの作った商品を自分たちで販売する、「C to C」的な サイバーショップですとかそういうもの。そういう、ワーク、マネー、マーケティン
グ、サービス、これらのビジネス領域と、それを媒介していくための「スペース」や 「オン/オフ」の各メディア。こういうものが登場してきています。
●ギルド&SOHOのネットワーク・チャンネル2
次のテキストでは、ご参考までにギルドのメンバーにどういう業種の人がいるのか
、比重分類を出しています。また、ギルド以外に、最近急にSOHO、SOHOと言いはじめ た、ネット系の組織で、SOHOを名乗っている団体がどのくらいあるか紹介をしていま
す。はっきりした数字は、URLをチェックしても、数が増減するのでわからないの ですけれども、まともに活動しているところで40ぐらい。SOHOのためのサービ
スをしているインターネット番組が140ほど、今現在あります。これはクリエータ ーだけが集まってやっているものとか、「アマゾネット」のように女性だけのサイト
であったり、あるいは「SOHO WEST」「SOHO埼玉」とかエリアでやって いるもの、「週刊SOHO」や「日刊SOHO‘S REROT」というメールマガジン
、情報発信に限定しているMLマガジン系など、たくさん登場してきます。
●ギルドが提唱する組織コンセプト
−みんなバラバラだけど、つながっている。小さいから巨大になれるエージェント
です。−
最後に、そういうSOHO化の流れの中で、我々のギルドが提唱している組織コンセプ トを紹介します。SOHOは基本的にはバラバラに存在している。自立して存在して
いる。自立して存在してはいますが、信用保証という意味では非常に弱いので、それ を農協とか、生協のように一つの法人として、あるいは一つの組織としてとらまえて
、それで交渉の共同窓口を持って、行政とか、対メーカーさん、インフラ系のユニバ ーサル機関に対して、消費者やパートナーとして交渉をできないものかと考えています。
例えば「電話料金が高いから、もっと安くせよ」とか、「来年、こういう車を買う とメンバーがいっているから、これくらいの値段で作ってくれないか」とか、そうい
う風な「SOHOの市場調整を組織的にできるように、今後目指していこうではない か」、といった意味で図を整理してみました。従来の株式会社と違うのは、あくまで
個々のメンバーとしては独立した事業者なのです。個々の人たちはいわゆる、おやま の大将というか、「SOHO大将」という、まあボスなのです。ただ、力がないのでみん
なで一つ便宜的に事業協同組合的な「SOHOのための公的な器」をつくって、自己 完結型のビジネスをしていく。「相互扶助型」といってもいいかもしれないし、「協
同生産購入」といってもいいかもしれないが、そういうようなものをやって「SOH O全体のセイフティ・ネット」と信用創造を開発していこうじゃないかというプラン
です。
その事例として、今までやってきたことを出しています。例えば、この16番目の 、我々クラブハウスの事例なのですが、JAS、いわゆるエアーラインさんの、97
年レインボー777新型ジャンボの国内線竣工というのがありました。黒沢明さんが 、虹のデザインを期待に描かれたのですが、その次のデザインはインターネットを使
って、一般公募しようではないかと。その地球レベルでのデザイン公募をわれわれが やりました。これは96年だったのですが、世界から1万点くらいの作品が集まって
、それを実際97年の春から、日本の中学生の作品が採用され、羽田―札幌間を、今 実際に就航しています。こういうものが、ひとつの象徴なのですが、SOHO型ビジネス
です。「プロシューマー型マーケティング」です。いわゆる、ユーザーがものづくり に参加して、それ自体がプロモーション効果となって、企業からいえば自社の商品を
、ユーザー参加で作り上げていく。しかも、その共同作業をWebで公開して、世界 の人たちと共有していく。これは少し進歩的な事例ですけれども。21世紀のモノづ
くりの新しいモデルとなっていくでしょう。
●まとめ
以上、非常に大雑把に、SOHOという概念をご紹介しました。まだまだ未整理なもの
ですし、私自身研究者ではないので、SOHOネットワークを提唱している立場からの報 告でしたので、非常に長くなりました。その他、SOHOの具体的なイメージをお伝
えするツールとして、SOHOに力を入れる日立さんとわれわれギルドで作った、「 SOHOワークスタイル」というパンフレットがあります。これは、シンボリックなパン
フレットだなと思ってます。まず、商品自体が、「MPEG」カメラという、日立さ んしか作っていない、世界標準のデジタル通信専用カメラです。動画の情報発信に優
れていて、まだ一般向けではないかもしれませんが、自宅を放送局のように、スタジ オとして使いこなすことができる。非常にSOHO的ですね。実際に設計事務所とか、W
ebデザイナーが、いわゆる何百万円という設備投資をしないで、自分の所から動画 を圧縮して、インターネットで素早く発信できる。しかも、わずか数十秒の作業で終
わるので、非常に便利です。今後トライアルで、SOHO向け直販をやろうというこ とになり、今準備している。この世界というのは、マーケットのスピードが速いです
から、あっという間に新技術の商品もプライスが半額ぐらいになってしまうのですね 。ですから、半年ぐらいたつと量販店へいっても欲しい商品がなかったりする。そう
いう意味では、マッチングマーケットとしての、SOHOサポートというのはビジネス的 にも、期待は大きいようです。
ですから、今後我々の方もユーザーの声を吸い上げて、ユーザーからメーカーに提案 していく。もちろん、大手企業だけでなく、我々自身がSOHOををサポートしつつ
、SOHOスタイルを何とか社会的に定着させていきたいなと、考えています。
以上、大雑把で、逆に皆さんの頭をSOHOというキーワードで混乱させてしまったと いう気もするのですが、もしご質問とかがあれば宜しくお願いいたします。
質問:SOHOの今後のボリュームについて。博報堂さんの調査の295万人というのは
、どのような根拠でこのような数字になってくるのか?(資料P11「日経トレンデ ィ」左上の記事)
河西:これは、日本サテライトオフィス協会の数字ですね。サテ協と言いまして、一
番最初にお話ししましたように、組織系のSOHOですね。サテ協さん自身が、大手企業 と政府系の、サテライトオフィス推進を研究する団体です。そこで、調査対象になっ
ているのが、組織に属していて、サテライトオフィスに勤務する、あるいは、週末サ テライトオフィスに行って仕事をする。雇用契約と持っている人の中で、在宅テレワ
ーカー勤務。それが80万人なのですね。その人たちが2001年にな300万人に なるという風に、協会が見通しているのです。これは、あくまで大手企業の、300
万人以上の企業に属している人、勤務者が690万人なのです。ですから、約半分の 人が、20010年には、何らかの形で、すべて100%テレワーカーではなくても
、部分的にテレワークをする。
これは空間的な意味でのテレワークは少ないかも知れないので、裁量労働制が導入さ れていくと、労働法的にはテレワークというか、SOHO系も入ってきますから、9to
5で、9時に出勤して、そこで「さあ、始業時間が始まりました。仕事をするぞ。」 という形ではなくて、もうメールが朝6時くらいに来てしまうわけですから、そこか
ら労働になるのですね。そういう意味で、テレワークはやらざるをえなくなる。です から、あまり数字的には、私は根拠がないと思います。難しいと思うのです。ただ、
重要な数字だとは思います。もっと、我々の立場から言いますと、我々のような昔か らFAXや電話を使って仕事をしている人は、テレワークではないのだ、といっても
それはどこにも答えはないのです。調査対象に元々なっていないわけで、本当は「組 織系テレワーカー」と、カギかっこでした方が良いのです。
質問:数字のことを少しこだわったのは、首都圏コミュニケートというのがありまし
て、2010年か20年ぐらいに、首都圏をどうするか、計画をたてる場合に、テレ ワークの増大によって、今東京の中心部に人が流入しており、通勤困難の問題があり
、それがかなり軽減されるだろうというのが、政府の考えなわけですね。現実にテレ ワークが推進されれば、そうなるのだけれども、日本では本当にそのような土壌があ
り得るのか。感覚的にどうなのか、というのをお聞きしたいのです。
アメリカのカリフォルニアなどに行きますと、労働形態に対する考えはSOHO的な感 覚をもっていると思うのですが。例えばイギリスなどでは、サッチャー政権でかなり
SOHOビジネスに対する政府の補助というものを出しましたから、かなり定着している 。日本の場合は、それに対して何をするかというと、大したことをしていない。そう
いった社会背景であって、どれくらい日本人はいくのかなというのが、分からないの ですね。それに関してどのようなイメージをお持ちなのかお聞きしたいのですが。
河西:かなり難しいのではないかということが、サテライト協会とか、あと民間でI
NFというのがありまして、フレックスワワークなどを研究しているところなのです が、かなり国際的にも開かれているところなのですが、良く話にでるのは、便利には
なるし、効率も良いのだけれども、組織的な部分で距離感があって、不安だという。 逆に、監視カメラみたいなものがつくことを、嫌がったりするじゃないですか。SOHO
の人たちは、望んでいる。観てもらいたい。逆に職場をカメラで観ていたい。そうい う物理的な一体感が欲しい。若者でいう、「繋がっていたい」感覚だと思うのですね
。空間的に繋がっていたい。ですから、大手組織の方や、営業マンの人たちは、効率 が良いからという形でテレワークセンターがつくられていますが、これはいくと思う
のです。ただ、企画セクションであるとか、そういう人たちが丸の内が遠いので、通 わなくなるかというと、どうなのかな、という気もします。
ただ、そうじゃないところが、現状の形態が崩れていくと思いますので、僕は結果 としてテレワークというものは、普及するというか、概念の問題なので、テレワーク
自体は、もっと人口は減ると思うのですね。テレワークとして捉えているかというと 、多分勤務しにそこまで行くという、という在宅勤務とか、空間移動のことをさして
テレワークといっているので、9to5で、職場以外のところで仕事をするモバイル ワークとは、みんなしていますよね。それから、インターネットとかを使って、メー
ルでお互いに情報交換をする。そういう人たちはそうですし、必ずしもテレですから 、インターネットやコンピューター通信に限定しているわけではないのですね。FA
Xや電話もテレワークなのです。
ですから、私は普及しいく気はしています。
質問:その時に、実態としてサラリーマンのテレワークは進んでいるのですが、結局
それを、もっと推進させようとすると、住宅整備の問題で、一つの独立した書斎をも っていないといけないとか、通信設備の問題がでてきますよね。その時に何らかの措
置が必要や、公的な補助とか、裁量労働制の現在対象になっている人より、もっと拡 大していくとかをやっていかないと、実態として、テレワークをやるというのは、企
業のオフィスでの仕事を外に出していって、そのワーキングスペースを個人に押しつ ける、そういうことになってしまう可能性もある。そこのところを、かなり声を大に
してやっていかないと、かえって苦しい面があるのではないかという感じがするので すが。
河西:そうでうすね。SOHO問題というのは、大手組織のフラット化とか、機能分散、
あるいは経費の削減という面でみたら、労働組合の人たちは反対するのですね。この 間、あるテレコミュニケーション系の方と話をしたのですが、彼は民主党を支持する
のですが、SOHOは当然無党派ですよね。もしかすると自営業だから、自民党かもしれ ませんよね。55年体制の経営者の方達と労働者の対立が、55年体制だったのです
が、今回のポスト冷戦というのは、組織VS個人の対立なのですね。組織という意味 での、既存労働組合の組織も、一方で組織なのですね。
たとえば、SOHO労働者に銀行はお金を貸してくれない。ところが、銀行に関しては 、資金が銀行経由できますから、政府の補償強化といっても、そこで蛇口が止まって
いるのです。その蛇口がとまっていて、どこにいっているかというと、大手の組織の ビルディングの維持費、人件費なのです。当然ボーナスなど出せるわけないのですね
。その、なのに我々SOHOは8兆円ぐらい、租税の納金をしているといわれているので すが、税金が投資されて戻っているわけでもないのに、税金だけもっていかれる。ど
ちらの視点でみるかによって、SOHO問題もずいぶん性格が変わると思います。おっし ゃるのは、良く分かる話で、その時に個人負担になるではないか、というのは、私は
個人負担になると思います、多分。企業は、そこまではできない。労働組合が反対す るのは良く分かるのですが、逆に生活者の側から、SOHOの側からみると大事にしてく
れよ、というのが主旨です。働かない組合員にお金をだして、そこから間接的に我々 がいじくるのであればいいよと。
例えば放送労連などは、フリーランサーの人たちと競合しているのです。放送局で は、報道も含めて95%アウトソーシングされていて、いわゆる許認可権をもってい
る放送局での行為というのは、電波の管理しかしていないのですね。実際、現場はア ウトソーシングされていて、ビデオジャーナリストなどは、カメラを担いで映像を切
り売りしていっているのです。日本は少ないですが、欧米はほとんどそうなっていま す。インターネット放送の時代になってくると当然、個人事業者が放送するようにな
ってきますから、許認可権は関係なくなってくる。
構造自体が55年のシステムから変わるので、常に多元的に見ていかないと、リ アルな、次何が起こってくるのかが見えてこないのが、難しいところかと思います。
以上