3)ネット社会経済という、未知の領域にSOHOはいる
●近く1000万世帯に導入されるというブロードバンド、家電業界のITシフトそのもの
が『自宅のホームファクトリー化』を推進していくので、潜在的なSOHO予備軍人口は
はかりしれない。MITのある教授は「やがてすべてのひとがSOHOとなる」と予測して
いる。
現在ネットユーザーは約4000万人、日本語によるホームページ総3600万。
『Yahoo! japan』の1日のページビューは延べ2億人を超える。
メールマガジンの取次配信をするSOHOから公開企業に育ったイ ン タ ー ネ ッ ト
の 本 屋 さ ん『まぐまぐ』では24,000種類、延べ3000万部のMLマガジンを扱い、カ
タログの登録読者は250万人規模で、すでに一部の全国新聞紙の発行部数を超えてい
る。しかも発行人の大半がSOHO系であり、ビジネス系の多くが自社の顧客管理のため
のパーミッションマーケティングのためのメディアとして活用している。
SOHOが集結した低価格出店料のオンラインショップモール『楽天市場』の成功も有
名だ。
SOHOは小さくなればなる程、家計とSOHO運営が限りなくかさなっているので、ユニ
クロ、MUJI、ナイキ、SONY、ドコモなどでは、ライフスタイルモデルとしてのSOHOに
注目し、120万社以上のSOHO口座をもつアスクル(商材デリバリ)も急成長している
。SOHO自体が優先的に支出のある(損金計上が可能)コンシューマズ(家計)市場と
してとらえるべきかもしれない。重要なことはこのSOHO市場の主要部門が『ネットポ
ータル』(B2B、B2C、C2C経由での包括的取引)サービス支出を高めつつあることだ
ろう。
●今後の市場は最大の事業所口座をもつSOHO市場対策無しでは、eコマースビジネス
は成り立たないといわれている。つまり、SOHOは『未組織労働者=零細事業者=高度
情報資本主義の中核=高度情報消費者』であるがゆえに、組織には無い意志決定の速
度において、本質的に『速度市場競争』には優位にたち、IT型先端市場経済発展=既
存市場ルール破壊のトリガーもになっているという指摘である。
現在のヤフーオークションが常時、約20万物件を主婦やSOHOから預かり、SOHOオ
ーナーを中心としたデイトレーダーを顧客に持つ松井証券がネット顧客のシエアを他
社から短期間で奪ったように、組織変化、意志決定、価格競争力、人権費比較でみて
もSOHOはIT市場の主役ともいえる。これは今後70〜200兆円まで急速に拡大するとい
われるネット市場において「生産・流通組織の崩壊」と「組織から個人へのパワーシ
フト」を裏付けているように思われる。
ネットNPOの動きも無視できない。20代の若者たちが無償で始めた巨大ネットサー
クルともいえる総合掲示板『2ちゃんねる』には、毎日80万人(延べ利用者350万人)
が訪れ、森羅万象のテーマ(無料掲示板は2万種類規模)について書きこみやチャッ
トがなされ、時には小泉ブームを演出し、嫌中国・嫌韓国運動(プチネットナショナ
リズム)の拠点ともいわれる。マスコミよりも速い現場からの一般人による報道や、
参加者が散逸的に無償で行う情報収集整理の速度性は、大変便利であり驚異ですらあ
る。歴史的にもいままでなかったタイプのメディアであり、コミュニティといえる。
しかし、その匿名性から可能なオフィシャルな組織の内部告発や特定個人、団体への
誹謗中傷は、同時に人権擁護を無視した数百万人の「巨大な落書き」ともいわれ、ネ
ットリテラシー(ネット上の社会規範)批判とともに、ネットデモクラシー議論も盛
り上がっている。
●注意すべき点は、インターネットは当然のことながら、仕事や生活の便利な道具で
しかない。「ネットを使用して儲けるのではなく、利用しなければ、ビジネス、コミ
ュニティにおいて存在自体が認知されない」という新しいルールが重要といえる。つ
まりURLのない者は検索エンジンにサーチされないので、やがて「世界に存在しない
」ことになってしまうのかもしれない。
これは『会社四季報』や株式公開市場(公開事業社は、たかだか3000社程度)に無
縁な圧倒的多数の国内600万社といわれる事業社の大半を占める小規模事業者、SOHO
が、歴史的にどのように法人資本主義のシステムのなかで扱われてきたかを考察すれ
ば、その重要性と深刻さは理解できるだろう。むしろ、最近は単にWEBサイトを開設
しても競合が多すぎて、レスポンスは簡単には得られない。ブランドロイヤルティが
価値を持つ事業やサービスの「ワンストップ化現象」と新規参入による急激な「価格
破壊」が、逆にIT市場全般の急成長のアキレス腱となり、株価の失速を招くなど、産
業革命のときにもあったラッダイト運動(機械化で職を奪わた失業者による機械打ち
壊し現象)にも似た「アンチPC、IT」ムードもただよいはじめている。
「事業モデルが3か月しか続かない」といわれるネット経済は、人類には未知の体験
なので、まだその真価はみえていない。ひとついえることは、大企業や行政府でなく
とも、市場的に価値を持つサービス、コンテンツがあれば、たとえその作り手が子供
、主婦、中高年であっても、市場はけっして差別をしない。
一時、マスコミが「SOHOは辺境の田舎であっても、家族の介護をするために通勤で
きない者にも仕事ができる」と競ってSOHOを紹介したが、それ自体は基本的にまちが
っていない。ただし、その場所は今のところ残酷なまでに「自由な競争に満ちている
」世界ともいれる。
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4)急速な社会のSOHOシフトに対応できない制度と課題
●では、そうした生活者の急激な変化に対して、社会はどのように対応したか?
2000年の暮れ、新政府体制発足の直前、斉藤理事長(現慶応義塾常任理事)のもと
『SOHOによるSOHOのための公益法人』財団法人日本SOHO協会が発足している。96年に
初めてSOHOギルドというNPO活動をはじめ、世間に『SOHO STYLE』の提唱と公的なサ
ポート体制の確立を訴えてから7年、この間大きく世間は変化していった。
国民すべてをネット化させる国策の『e-japan』構想が発表された99年、当時の与
党幹事長と会合した時点で、議会内にSOHO反対論者はいなかった。通産、郵政、労働
のSOHO関連主要3省の大臣も、SOHO支援を明確に議会で答弁している。その後、SOHO
理解者の竹中慶応大学教授はIT経済担当大臣に就任し、橋本元総理も自ら渋谷ビット
バレーエリアに足を運ばれている。しかし、この動きが社会全体のSOHOシフトに反映
できているかというとそうではない。
SOHO協会もこの間、SOHO支援のため、大蔵省令通称『PC特別減税』の延長をは
じめ、『国民規模のIT講習』公的支援等いくつかの提言を実現させてきた。他にも『
SOHO電子基本台帳開発』(SOHOデレィクトリ)要請(2000年度の研究実験実施/*注
1)、『SOHO電子政府促進整備』プラン(*注2)は、実施されれば、今後サイバー政
府やユニバーサルサービスの窓口としての機能をもつことになるだろうが、政府の
SOHO政策、投資はまだ本格化してるとはいえない。
●労働組合のないSOHOの労働福祉環境は、『自由化=IT革命の推進』で逆に過酷さを
増している。また全事業所シェアの24%をもつSOHOの多い専門業、サービス業種とわ
ずか0.3%しか占めていない農林水産業系事業所との公共投資格差は、実に100倍に及
ぶ。
●行革推進と景気浮揚のためにも、『官公需の建築・土木分野からIT、SOHO分野への
シフト』、SOHOの経営近代化、業務安定化、労働福祉環境の整備、デジタルシフト支
援、ポスト終身雇用型就労であるSOHOの男女就業、育児、小子化対策等の『SOHOの新
家族計画』モデル開発は、国のネクストビジョンで、急務の課題だろう。
●10年以上連続して我が国の開業率は減少しており、安全ネットの弱い掛け声だけの
ベンチャー育成をしても、受註競争の激化、価格破壊を招くだけであり、市場の拡大
、雇用促進には直結しない。むしろすでに各業界でプロフェッショナルとして事業を
展開する我々SOHOの基礎体力を強化し、『国民規模のSOHOの大きな家』といえるナシ
ョナルセンターをつくり、中高年の企業退職OBのSOHO社外役員就任や、若者層の新規
雇用を促進させ、共通の安全ネットとインフラ基盤整備を強化するほうが、その規模
から現実的な失業対策となり『永年の職人的スキルをもつSOHO』を市場にとどめ、来
る高齢化社会のなかで活かす構造改革につながると思われる。
●10代の米国人が開発した『グヌーテル』というサーバーを経由しない音楽コンテン
ツ自動収集ソフトは、ネット上を妖怪のように徘徊し、個人のPC端末から著作権どこ
ろか所有権さえ無視して勝手にコンテンツを「盗んでいる」。しかし追跡どころか我
々はその事実にさえ気づくこともない。そういう従来の資本主義的ルールの外にうま
れつつあるのがネット経済社会であることが、SOHOを語るうえできわめて重要だ。
●ちなみにgoogleによるSOHOキーワード検索では英語で177万件、日本語で28万件以
上のURLがヒットし、現在も1カ月に1万件以上のURLが増加中である。SOHOというキー
ワードが誕生して7年たつが、その勢いは現在加速度を増しはじめており、ベンチャ
ーに匹敵する一般用語として一般社会に定着してきたとみてもよいかもしれない。未
来の歴史家は現在をIT変革による個人の『ワークスタイル革命』の時代、『SOHO誕生
の時代』と名付けるかもしれない。
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*注1●『SOHO電子基本台帳整備』
SOHOの「個人プロファイル」と「事業所活動概要」を二つの公開型WEBディレクトリ
ーにて自主エントリーし、認証、与信とリンクしたワンナンバーによる『SOHOーID』
を発行。500万社を超える未公開事業所のための「SOHO版有価証券報告書、会社四季
報」として機能させる公的標準プラットフォーム。これによりはじめてSOHOはキャリ
ア自己証明が公的に可能になり、B2C,B 2Bの与信、各種ジョブマッチング、トレード
、貸し渋り対策、信用創造が可能になる。00,01年度政府予算により日本SOHO協会で
開発し、基本データベースの検索プログラムは一般公開されている。
http://www.j-soho.or.jp/
*注2●『SOHOサイバー政府プラザ』
SOHOが活用可能な政府、公的機関の支援サービス施策をWEBで一元検索公開可能にす
る。金融、住宅、保険、年金、雇用、労働環境、税務、経営、法務、教育、育児、休
暇、福利厚生、環境、通信など案件数は3万件規模。縦割り行政の弊害でSOHOがそれ
を簡単に活用することは困難。ネット上の『ワンストップ化エイジェント』で、事実
上効率の良いSOHOサイバー政府が登場する。
以上
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●かわにし・やすお
1960年生まれ。出版社(株)クラブハウス代表取締役。財団日本SOHO協会副理事長。
『SOHOギルド』の提唱者。『ルナパーク』開設運営(100万人動員)『JAS777/イン
ターネット虹の機体デザインコンペ』他企画多数。95年以降のSOHO運動では大蔵省令
通称『PC特別減税』の延長、総務省『SOHOディレクトリー』等の成果を得る。『SOHO
STYLE』『SOHO独立開業ビジネスの素』シリーズ刊行。コクヨSOHO、『JCB SOHO
STYLE法人 CARD』、ジャパンネット銀行『SOHO ACCOUNT』開発協力等
編著/「オリコンNO1ヒット500」「無党派時代の智恵」等.
日本SOHO協会 http://www.j-soho.or.jp/
SOHOSTYLE http://www.sohostyle.tv/
E-mail kawany@sohoguild.co.jp
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*この原稿は、2001年に経済産業省系の機関に依頼され、執筆したものを、02年7
月に加筆修正したものです。
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