SOHO GUILD


 虎ノ門インターネット研究会での
ギルド・カンファレンス
(一部抜粋,95年12月/日本財団)




【河西】 どうも初めまして。クラブハウスの河西です。 学生援護会という「an 」「DODA」「Salida 」という若者向けの求人情報誌を出している会社があるんですが、その会社の子会社として84年に設立しました。現在は独立していますが、主に若者マーケット、「ユースマーケット」というんですけれども、松下電器、東京ドーム他,各社の商品開発やプロモーションを12年間ぐらい、仕事をさせてもらっています。
 クラブハウスの特徴というのは、’大人の夜の遊園地’として定着した後楽園遊園地の「ルナパーク」や「キッスでドームが入場無料」で話題になったプロ野球のニチハムのようなクチコミ型のユーザー参加型のプロモーションが多いですね。最近は出版社としても90年以降の東京の若者の噂を集めた「東京の噂」という本を出したり,大前研一さんが都知事選にでたときは,なかなか受け取ってくれない政治パンフの代わりに人気のしりあがり寿さんに描いてもらったパロディのインビチケットを40万枚近く配布して青島さんをびびらせたり,色々と遊ばせてもらっています。


公開されない情報化時代のシャドウナンバー

 84年に国内で初めてだったと思うんですが首都圏の大学のサークルの活動プロフィール、5,000団体のイエローページをつくりました。 今でもそうですが、各種サロン、クラブ、研究会、そういうインフォマーシャルな組織はあまり電話帳に番号が載っていないんですね。我々、内部的にシャドーナンバーというふうに呼んでいたんですけれども、世帯主とか法人登記をされている企業の電話番号は載っているんですが、例えば早稲田大学のAサークルの代表者であるA君の電話番号は、Aさんがお父さんと一緒に住んでいる場合は、世帯主のお父さんの電話番号という形で表現されていく。
 電話事業法、これは古い法律で、個人のプロフィール情報というのは公の機関が発 行してはならないという条項があるらしいんです。ただ、民間会社が発行する分に関 しては構わないらしいんです。これが帝国データバンクをはじめ、民間企業の中でも情報処理業とかデータバンク事業をされている企業の1つのビジネス情報源になっているわけです。

   我々はそれをどんどん公開していこうじゃないかと。これからは余暇とかレジャー 、生産中心からもっと時間を重視していくように時代は変わっていくだろうから、特 に、大学生になりますと、4年間、授業に出るよりもサークル活動にいそしむ人たち のほうが非常に多いんで、その人たちが今何をやっているのか、それを調べようじゃ ないかということで、87ぐらいの分野に分類しまして、5,000団体を調べたデー タベースがあります。それをもとに行政関係の仕事とか、民間企業のユースマーケッ トの商品開発とか、現在のような仕事を始めてきたという具合です。

 先ほどから、きょう出席されている方の中から情報発信とはどういうことなのか、 インターネット時代、マルチメディア時代の情報発信はどういうふうになっていくの か、組織はどういうふうに変容していくのかというお話がありました。
「GUILDJAPAN 」というのは、まさしく新たにインターネットを中心と したマルチメディア環境の中で、個々独立した人,組織を持っていない人たちがどういうふうに組織をつくっていけれるのかというのを課題にした事業プランです。

 私個人はインターネットはまだ始めたばかりと言ったほうがいいと思うんです。きょう同席しているうちの水谷とか20代の若手のスタッフはインターネットを1日何時間でもやっています。モニターの前に座るとほかの仕事が手につかないような状態で、切りがないという状態です。


情報はキャッチボールされて初めて生きる

 12年ぐらい前から、NTTの高度情報通信事業部と郵政省のほうでビデオテックスという家庭端末導入の実験が始まっています。、フランスではミニテルが500万台ぐらい普及していますけれども、それの日本版でキャプテンというのがありまして、300社ぐらいの上場企業が集まってキャプテンKKという会社を第3セクターでつくられて、84年から現在迄続いています。これが今から思えば第一次マルチメディアブームといいますか、ニューメディアブームだったと記憶しています。

 私はそれに若干タッチしていました。特に、若者向けに端末をいかに普及させれば いいかという方面を担当していました。そのときに提案したのが、当時の親会社の学 生援護会は1日数万件の求人情報をすでにCTSで処理していましたので、求人情報を処理する過程で紙メディア、つまりプリントに落として処理することは事実上無駄が多い。むしろ、そういう端末を30万社のクライアントに無料で配って、そこに求人情報を置いていったほうが利益が上がるだろうと。それならば、ユーザーも含めて100万台ぐらい無料で配っちゃえと。
 そのかわりターゲットを決めて、大学生とか都市に住んでいる、当時ですと東・阪・名の都市部に住んでいる16歳から24歳ぐらいの若者層、この人たちに限定して配りましょう。そうすれば、黙っていても電通、博報堂は元より、家電メーカー、クレジット会社、銀行、保険、マスコミという日本の高度情報化産業を支えている企業がこぞって参加されますよ、と。まず、ユーザーをつくらない限りは1台18万円で端末を買おうなんていうユーザーはどこにもいません。そういうことで各方面を口説いてクラブハウスが責任を持つという形で伊藤忠から安く仕入れた端末を無料で2,000台ぐらい貸し出して、当時としては初の試みだったフリーランサー向けクレジットカードから会費引き落としをやったことがあります。

 それは3年間ぐらいだったんですけれども、感想を一言で言いますと、「情報はキャッチボールされないと全く生きてこない」という、これは当時の我々の結論でした。80年代に「マルチメディアはヤバイぞ」(笑)ということをすでに300社の企業が経験しているわけです。国が音頭をとって何兆円という費用をかけてやったんですよ。結果、大失敗です。


組織は官製情報しか発信できないのか?

 これはどういうことかというと、官製情報というんですけれども、公の情報を送り 出すんですね、組織というのは。これは組織の原則なんです。組織、あるいは法人は 法人格という人格を持っていますから、人格としての情報を出す場合、方言を使わな い。共通語でしゃべっていく。企業スタンスとしての広報のポリシーを守った上での 機能をそこに付与していくという大前提があるんですね。

 フジテレビ、NHK、TBS、みんなカラーが違いますよね。最近は久米さんみた いな新しいキャラクターのニュースキャスターも登場されていますから、ニュース報 道番組でもいろんなタイプのものがありますけれども、基本的にはアンダーグラウン ド情報というのは公のメディアは扱わないんです。
 結果として、キャプテンに関しては官製情報という校閲された情報、校正された情報に関してはレスポンスはほとんどない。機能した情報は、いわゆるユニバーサルサービスといはれるJRの座席の予約、海外旅行の価格リスト、中古車の販売、株式情報とか経済に直結している情報ばかり.機能的に便利だから使うという部分ですね。広報的な情報は全く見られていなかったと言っていいと思います。

 唯一見られていたのはミニコミ的な情報です。これはどういうものかというと、先 ほど言ったアンダーグラウンドの情報なんです、うわさ情報であるとか。一番人気が あったのが富山県で18歳の女子高校生がつくっていたチャンネルでした。
これは富山の第3セクターがさすがにみんなが見てくれないので、やっぱり若い血を 入れようということで、富山県の県立高校生につくらせたんですね。それが非常に人 気になりまして、今でいうおたく情報なんですが、当時のキャプテン番組の中では一 番人気があったと思います。  前回は会津さんが出席されたということですけれども、大分県の平松知事がされて いたコアラというパソコン通信ネットワークがございます。コアラのように、行政と 市民と消費マーケットに携わっている人たちが、ミニコミ的につくっていたチャンネ ルというのはやっぱり人気がありましたね。ただ、それはキャプテンで主に受発信を していくんじゃなくて、パソコン通信、BBSで情報発信をしていた。基本的には公の情報はニューメディア、マルチメディアにはあまりそぐわないというのが我々の感想でした。

 情報というのは必ずしも活字情報だけではなくて、エンターテインメントやアミューズメントとかあらゆる要素が入ってくると思うんです。今のゲーム業界をごらんになってみればわかると思うんです。例えば家電の販路とか販売力に関しては松下は当然、日本一なんですね。ところが、コンピュータをやりたくてもできないんですよ。10年間、悪戦苦闘して上手くいってない。
 なぜできないかというと、そういう人を抱えていないんです。任天堂は15年前ま では京都で花札をされていたわけですけれども、80年代の半ばに学生の中から、例 えばコピーライターの糸井さんたちを中心にユニークな人間をどんどん青田刈りする んですよ。これはどういうことかというと、4年生になってリクルートを通じて採用 していくとか、そういうことを待っている場合じゃない。優秀な人間は中学生、高校 生ぐらいの段階から自己表現をしている。その中から才能のある人間をつかまえてい かないと、将来自分たちの競合があらわれる。
 これは今でいうセガとか、任天堂以外のソフトコンテンツをつくられている会社の人材のことを指して言っているんです。

 この業界というか、マルチメディアというのは基本的に僕は人だと思っているんで す。形としてはハリウッドビジネスのように、例えばルーカスが1個の映画をつく るために会社をつくって上場させ、映画が終わるとプロジェクトが解散、会社も売却 するというスタイルが多分、標準になると思います。ドラッカーも言っていますけれ ども、マーケットは常に変化していきますし、情報発信に関しては当然、価値がない とだれも見ません。価値のない情報を幾らワンウエイで送りつけても、それは意味が ないんですね。組織内部の自己満足という意味はあると思いますが、今の政府官報の ような無意味なシステムに多分陥ってしまうんじゃないかと。


生きたマーケットによって変化せざるを得ない組織

 話がちょっと前後したんですけれども、インターラクティブに情報発信をして、情 報にキャッチボール性が生まれないものに関しては、取組自体、根本的な姿勢を考え ないとだめになります。ですから、ハードの問題よりも、むしろ組織広報としてのソフトコンテンツをどうしていくか、プロデュース、ディレクション、あるいはコンテンツをつくる人間がどういう人間なのか、それが組織と合うのか、組織の代弁者になれるのか。逆に言うと、「その人間が組織を変える」場合もあるんじゃないか。

 例えば松下電器でいうと、ナショナルというブランドで86年までやっていたんで す。ナショナルブランドはソニーの次か、その次ぐらいかなと我々は思っていたんで すけれども、イメージ調査をすると6位だったんですね。ソニー、NEC、シャープ があって、ナショナルブランドは6位。つまり、若者はナショナルなんかだれも買いたくない、機能がよくても。むしろ、海外で展開していたパナソニックブランドだったら同じ商品でも買ってもいいと。そういうものを記号消費と言いますけれども、シンボリック経済に今、消費マーケット自体が完全に移行していますから、ナショナルブランドで売れないんであれば、パナソニックブランドを導入しようということで、組織変更を求めていくわけです。
 首都圏の5,000団体のユーザー、これは20万人ぐらいのマーケットですけれど も、その人たちが「パナソニックであれば買ってもいい、でも、ナショナルじゃねえ」と言う。
 そういうふうになると、組織は変わるわけです。それで、ヨーロッパの松下電 器の組織を統括されていた佐久間さんという副社長( 現WOWWOW代表)が戻られて、3年かけて組織を変えました。宣伝方法から全部切りかえて、何とか90年の頭ぐらいにそういう開発型の組織に、ソニーに近いようなものになった。

 日々、そういうものは変わっていかなければいけないんですが、ゲームマーケット に関しては94年に入った「3DOリアル」。皆さんご存じのように、社運をかけてやると言ったわりには全然コンテンツがついてこない。ハードは世界仕様で、統一仕様のものを出したんですけれども、コンテンツをつくる実際のプロダクションが、「これじゃだめだ乗れない」と。結局、幾らブランドと営業力があっても機能がだめだということで、セガとかソニーの機種のほうにプロダクションはついていっているようです。
 ですから、マルチメディア時代というのは非常に恐ろしいと思うんです。きのう までの大きな組織が一瞬にしてたちどまっていく可能性もあるマーケットだと思います。

 昔、ゼロサム社会とか、いろんな経済論、マーケット論が取りざたされたことがあ りました。僕も経済は詳しくないんですけれども、ドラッカーが言っているような、 日本でいうと大前研一さんたちが言っているような、グローバルエコノミーという経 済に関しては,国境線がない以上、「今までの組織がこうだったから、こういうふう な方向でやるべきだ」という理屈は全く通用しない。
 つまり、グローバルエコノミーの中では自分たちの要因じゃなくて、外部の要因によって左右されるわけです。
 アジアで新しいゲームや番組が登場してシェアをとった場合、アメリカがライバルじゃなくて、今度はアジア、例えばシンガポールのあるプランナーのつくった商品、そのネットワークというのが新しい脅威になっていく。それはもしかしたら上海発、ハワイ発かもしれない。国境線がないわけです。

 昔、テトリスというゲームがありましたが、ロシアの人がゲームを初めて使って、 これだったら自分もつくれるじゃないかということで、非常に単純なゲームをつくっ て世界的に大ヒットしました。ソフトビジネスとかマルチメディアビジネスというの は、そういう要素が非常に強いということだと思います。
 松下もソニーもハリウッドの映画資本を買いましたね。それはソフトコンテンツが たまっているからという理由で買ったわけですが、それをつくっている人間がみんな 飛び出したので無価値になって、何兆円規模の赤字、損ですね。そういう恐ろしいこ とが起こっていく。


「点と系」の新しい組織観

 今、企業がおそらくされているのは、中間管理職をどんどんなくしていくというの は当然なんですけれども、組織の形態ですね、これをどう考えていくか。これは私の 考えじゃないんですけれども、大前さんのところで「一新塾」という塾を今やってい まして、私はそれの企画委員をやっています。
 講師に博報堂生総研の方に来てもらったときに、「これからは点と系だ」と。キー ワードですね。「点と系」というのはどういうことかというと、点なんです。ブロッ クとか属とかグループじゃなくて、あくまでも個人の点でしかない。系というのは、 音楽で渋谷系とか、そういう言葉があります。いわゆる○○に属しているというんで はなくて、1つのタームの中の流れに近いかなというぐらいのニュアンスの系という ○○系。
 点と系の時代には属ということはない、○○に属するとか、そういうふう なことはもうないだろう。属している限り、その組織のしがらみの中で、もしかした らチャンスがほかにもあったのかもしれないけれど、情報が入ってこない。あるいは 、組織の中の価値観によって自分の方向性を見誤る。そういうこともあり得るだろうと。
 日々、環境が変わっていくということは、個である個人も変わっていくんですね。 マーケットでいうと、1つの商品をつくって、マスで流していけばにぎわうような経 済でやっていけたわけですけれども、今は機能はみんな同じですから、付加価値でソ フトの部分、コンテンツの部分をどう変えていくかというだけの話です。ですから GUILDに参加して貰いたいクリエーターの人たちとか、プランニングをやっている、ソフトを扱っている人たちが、僕はこれからは非常に重要になっていくんじゃないかと思っています。

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