SOHO GUILD


 虎ノ門インターネット研究会での
ギルド・カンファレンス
(一部抜粋,95年12月/日本財団)




市場の成熟とともに登場してきた
クリエイティブ・マーケッター達


 マルチメディアの話に入る前に、クリエイターズ、フリーワーカーズ、ベンチャー とか、こういう人たちは一体何なんだという話がまず来なければいけないんですけれ ども、60年代以降、マーケットの中に差別化マーケット、クラスターマーケットと いうのが登場するんです。つまり、家電商品も大体行き渡って、みんなそこそこの生 活ができるようになった。いわゆる1万ドル経済に突入したと。今の台湾とか韓国を イメージされるといいと思います。

 これから安定成長でやっていこうという時代になってくると、もう物を単につくっ ても売れない。そうなると、色を変える、形を変える、キャッチコピーを変える、あ るいはライフデザイン提案をしていく。例えば、ビジネスマンはスーツを着なければ いけない、これはおかしいじゃないか。スーツを着るんじゃなくて、もっとラフな格 好でもいいんじゃないか。あるいは、外国のデザイナーがつくった服を着たほうがい いんじゃないか。アパレル業界の人はそういう提案をするわけです。
 冷蔵庫だと、1個の冷蔵庫を単につくるというんじゃなくて、100種類の冷蔵庫 をつくって、100人の人に買ってもらう。1つの形の冷蔵庫でも色を10通り、1 00通りつくっていくと。そういうクラスターマーケティングが始まりました。「 ユーザーは一人ではないんだ、ユーザーは一人の中に無数にいるんだ」一人のユーザーも朝と夜の気分では変わるんだという考え方です。

 皆さんもご記憶にあると思うんですけれども、十数年ぐらい前から飲料メーカーが やたら商品をどんどん出していく。中身は同じなんですよ。キリンビールもアサヒビ ールもサントリーも、中身はそんなに変わらないです。パッケージが全部変わるんで す。どんどん変わっていく。これは当然、商社とかいろんな人たちの思惑があるんです。
黙っていたらもう商品なんて売れやしないから、なりふり構わずあの手この手で攻めてくる.

 いい例が、朝シャンというブームが昔ありましたけれども、夜中の電力をどう使っ てもらうか。これは東電の会長が考えたアイディアで、とにかく電力を使ってもらう 。朝、水を使ってもらうとか、そういう水回り関係をもうちょっと使ってもらおうと 。台所はというと、水回りはあんまりないんです。じゃ、若い女の子に朝、髪を洗わ せたらどうだ。それがまんまと当たった。あれはシャンプーメーカーや化粧品、そう いうところが呼びかけをしたというよりも、むしろ東電とか、そういうところなんで すよ。朝シャン、朝から温水で髪を洗って電力の無駄使いをしています。

 最近だと、額がだんだん後退している人たちに対して、コンプレックスビジネスと いうんですけれども、アデランスとか、そういうところが、とにかくヘアケアをきっ ちりやりましょうと。髪の毛ぐらいどうでもいいんじゃないかと思うんですけれども 、とにかくテレビとかを使って強調していくわけです。あるいは肉体改造マーケット 。自分が男にもてないのは自分がよくないからだと。それは精神にあるんじゃなくて 、肉体が悪いんだということをビューティサロンとか、そういうところが繰り返し女 性メディアで広告を打ってやるわけです。そういうことをやって、マーケットを何と か維持していく、拡大していくわけです。


産業として認知されていない
300業種600万人の「ソーホーズ」


   そういう付加価値ビジネスを支えているのが、クリエイターズと言われているいわゆるカタカナ文字系の人たちです。これは人口的にどれくらいいるかというと、ここでは組織に属していない、組合等に属していない人たちを考えまして、約600万人、今います。その600万人の人たちというのは、何故か相互扶助のネットワークというのを実質的には持っていないんです。
 しかも,国連憲章、労働憲章にあるような、例えば、年間1800労働時間を目指そう、なんていうILOの最低労働条件は全く満たされていません、実際はフリーランサーといっても潜在失業者と余り変わりません。
しかも,致命的なことは、政府への窓口を持っていない。通産省の産業区分表にも分類されていない新しい業種が300程あり,今も増え続けていますが,政府には担当官すらいない。55年体制の中で社会党が基盤にしていた労働組合とか、そういうところとの接触もほとんどありません。
 マーケット自体が成熟したのがここ20年ぐらいです。全消費者市場の中で彼らが関係して上げている売り上げというのは、クリエイティブ、マーケティング関連でいうともう9割を超しています。実質上、情報化消費の視点でとらえると3割ぐらいの富は彼らがつくり出していると僕はとらえています。なのに横断的な団体ひとつないのが現状です。
 ちなみに,アメリカではそうした「スモール・オフィス&ホーム・オフィスワーカー」のことを「ソーホーズ」と呼び始めているそうです。


250万分の1のオルタナティブなネット・カルチャー

 ところで、アメリカでクリントンとかゴアがシリコンバレーの連中にバックアップしてもらって、世界情報ハイウエイ構想というのをぶち上げましたよね。マイケル・ミルトンというゴアのブレインをやっている人、まだ36、7歳ぐらいなんですけれども、彼がそこら辺の青写真を全部書いています。
 GII体制をつくる。政府は小さい政府に流れていくのは歴史の必然な んで、その中でアメリカ政府がアメリカ資本とか、アメリカ市場を中心に世界の標準 化をつくっていくべきじゃないか。そういう意味での情報ハイウエイ。規制緩和をし て、富がなくてもアイディアを持っている人たちはどんどんうちの庭に来てください 。それで、インターネット等をバックアップしていったと。これが数年前の流れです。

 インターネットは加速度的にここ1、2年で一般のマーケットに落ちていっていま す。今、250万番組があるらしいんですが、おそらくそのうちの7割から8割はクリエイターズ、フリーワーカーズのチャンネルです。ですから、既存の組織からは発信されないオルタナティブなアンダーグラウンドチャンネン、アンダーグラウンド番組です。無法地帯と言われていますけれども、非常におもしろいんですね。

 例えば、カエルだけのチャンネルがあって、とにかくカエルに関することだ けをその人は一生懸命、情報を発信していると。何て変わった人だということになる んですが、世界175カ国でそういう番組はおもしろいから見てやろうという人は当 然いるわけです。日本のコンテンツで一番人気のあるのは、やはりエロチックな方面の番組みたいですけれども、月に27万コールから30万コールぐらいあるらしい。

 250万番組の中で、既成の組織がどういうふうな表現で、何を伝えていこうとす るのか。我が社の活動をPRするから見てくださいと。これは新聞とかテレビのよう に情報垂れ流し構造ではないですから、基本的にはまずそれを考えなければいけない 。シビアにいうと「基本的には見られない」ということを前提に考えたほうがいいと思います。

 まず、250万分の1になることからスタートするわけですから、番組の名前、テ ーマは覚えやすい名前にする。「我が社は何であるか」ということ自体に情報を求めている人は、基本的には仕事を探している人ぐらいです。そういう人たちに対しても、リクル ートの4,000企業の情報チャンネルがもうすぐ出ますから、多分、ダイレクトに見 ないでしょう。リクルートチャンネルを見るとか、援護会、日経のチャンネルを見る 、そういう形になっていくでしょう。

 そうなってくると、組織の情報もコンテンツをどんどん分化していって、分けてい かなければいけないというふうに多分なっていくんじゃないか。ヨーロッパではブラ ンドごとにチャンネルをつくったりする試みが行われているみたいです。例えば、ブ ランドチャンネルを出して、それにレスポンスした人たちに対して商品サンプルを送 ってしまう。インフォメーションでなくて、インフォマーシャルという意味ですけれ ども、インフォメーション自体がコマーシャルと一体化していて、それが商品にダイ レクトに結びついている、ダイレクトセールに結びついている。そういうところまで やっていかないと生き残っていけない。


「ソーホーズのことならギルド」という窓口が必要

 そういうこともありますので、我々もギルドは基本的なスタートの時点では、GI I体制の中で情報交換をしていこうということを前提にしています。これはどういう ことかというと、クリエイティブ関係というのはこれからはアジア系の人たちとか、 ヨーロッパやアメリカとか、国籍に関係なく競合していきますし、才能には国境線が ないですから、当然、そういう人たちとの連動は非常に必要です。

 先ほども言いましたが、我々の業界というのは、経営、労働、生活環境も含めて非常に低レベルなんです。特に、行政、企業、団体、学校との窓口があんまりないんです。今回、政府補正予算が14兆円支給されているみたいですけれども、14兆円がどこに行っているかというと、農業土木、農協、銀行関係、大組織関係の団体です。具体的に言うと、財団とか業界利益団体。
 我々はこういうものを持っていないので、今、各省庁と交渉をさせてもらっている んですけれども、まず団体をつくってほしいと。そうじゃないと、14兆円あっても 一銭も支払う窓口はない。実際は、民間の銀行とかベンチャーキャピタルに我々向けの投資が落ちているんですが、担保物件がないんで、お金を借りることも、補助を受けることもできない。

 逆に言うと、現在の構造というのは、本来はマルチメディアを支えているこの業界 に一番投資をして、消費経済のカンフル剤をここに打たなければいけないのに、いま だに建物をつくるとか、牛しか通らない道を舗装したりしている.そういうところに何兆円も投資しているんですね。それに対して、だれも声を立てていかない。ですから、僕個人としては、まずギルドのような、電子ネットワークで新しい世界構造の提案とか、リアルに生活の上で使っていけるものを出していかないと、実際にはインターネットがユニバーサルサービスの名のもとに、日常的に使われることはないんじゃないかという気がしてならない。

   ソーホーズ全体でとりあえず600万人ぐらいがマーケットであるとしたら、本当は4100万人,全労働者の78%がソーホーズという「スモールオフィス&ホームオフィス・ワーカー」なんですが....当初、ギルドではとにかく1%加入を考えようじゃないか。法人でいうと4,500社、フリーワーカーでいうと5,000人ぐらいの規模です。これは1つの都道府県でいうと80社ぐらいですから、そんなに大きな数ではないんです。

 まずインターネットのホームページに電子イエローページをつくって1つのホームページの中に彼らのプロフィール、1,000字ぐらいでどういう活動をしているのか全部公開します。ばらばらなホームページでやる限り、250万分の1にしかならないので、まずアメリカのYAHOO(ヤフー)社がやっているように、コンテンツのインデックスをつくって、クリエイティブ関係とかフリーワーカーズとか個人で頑張っている人たちに関することは、このギルドを見ればいいという感じを作っていきたい。

 ですから、ギルドの中には当然、ほかのディーラーがいたり、中古車のディーラー がいたり、遊園地をやっている人がいたり、小規模でいろいろなユニークなことをや っている人がいます。学生さんもいたり、モデルの人、芸能関連の人もいるかもしれ ません。あるいは、ジャーナリズムに採用されない情報を、自分で言いたいことがあ るから言いたい、そういう人たちもいるかもしれません。そういう人たちにとっては 自分たちの情報を見てくれる場であると。そういうところからスタートしようと思っ ています。


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