SOHO GUILD


 虎ノ門インターネット研究会での
ギルド・カンファレンス
(一部抜粋,95年12月/日本財団)




自分達はここにいるぞ

 先ほど言った、昔、5,000サークルの大学の電話帳をつくったときに、マーケッ トが即座に反応したように、今度は彼らも10年以上たっていますから、各界で活躍 していると思いますし、インターネットで自分たちはこういうことをやっているんだ という自己アピールを発信していくと。その次に、それを通じて相互扶助型で生活や 経営、あらゆる領域で助け合おうじゃないか。

 もともとギルドというのは、中世のヨーロッパの石工組合からスタートした概念と いうか、考え方ですから、自分たちの利益は自分たちで守っていく。農業関係に従事 されている方が農協をつくって、農協中金をつくって、それで自分たちの利益が守ら れているように、我々もそういうふうに使用していこうじゃないか。なるべく会費も 低く設定して、例えばインターネットで情報公開するコストに関しては、個人だと1 万円、法人でも2万円。それで1年間、情報掲載をします。これは現在のコンテンツ ビジネスをされている企業の約10分の1のコストだと思うんです。組織参加維持費としては月額1人1,000円ぐらいでやっていこうと思っています。

 事業領域の1番目に、まず重要なものがワーキングです。「自分たちはここにいるぞ」と。ここにいるぞ!ということがそのままワーキングになりますから、求人、求職の情報交換、人材バンク、電子バンクというものになると思います。同時に、自分たちはこういうものをつくっているという意味では、著作物、作品、電子商品、ソフトバンクになります。 あとは、独自の技術、所有機材、チャネル、知的資産、こういうものがここに表現されます。
 これはなぜ重要かといいますと、フリーでやっていますと、例えば通産省のマルチ メディア・グランプリの賞をとっても、コピー機をリースしてもらいたいと民間のリ ース会社にお願いしたときに受理されないんですね。これは単純な話、給与生活者で はないんで給与が保障されていない。去年まではこれだけの年収があったけれども、 来年どうなるかわからないですねということで、リース設定ができなんですよ。
 ですから、そういう人たちは何するかというと、プロダクションとか代理店の隅っ こに行って、そこの機材を借りるわけです。

 最近は、さすがに今の日本のシステムにはうんざりしたというんで、みんなニューヨークとか海外にどんどん脱出しています。クリエイティブの分野でも優秀な人間はどんどん国外に脱出しています。作曲家で有名な坂本龍一さんもインターネットでギルドの呼びかけを一部していますけれども、欧米でもこういう呼びかけがどんどん始まっています。インターネット上で、特殊な技術を持っている者、高価な機材を持っている人たちというのは、それをタイムシェアリングしていく、人間に関してはワークシェアリングしていく、そういう形になっていくんじゃないか。

 ギルドの中にパソコン通信非公開ネットがありますが、より詳しい情報を交換しよう、あるいは、非公開でやらなければいけない部分、そういうものに関してはスタッフ利用のみの非公開のBBSをつくっていきます。
 我々のコンソシアムに参加している「LOOK」というパソコン通信があるんですけれども、その中では映像の通信をベースにしたファーストクラスのパソコン通信をやっています。それは、地方に住んでいるモデルの人たち5,000人に呼びかけて、いちいちオーディションのために東京に来てもらうんじゃなくて地方にいてもオーディションに参加できるように、自分たちの映像ビジュアルを全部入れる。それをもとに、その周りにスタイリスト、ヘアーメイク、カメラマン、スタジオでるとか、ビジュアルで仕事をやっている人たちが集まって運営していこうと。


「売りの完結」と600万人のエージェント

 ワーキングがあって、次に当然、マネーというのがなければいけませんね。仕事で得たお金、あるいは仕事をつくるためのお金ということで、VISAとかMASTER、そういうところのエレクトロニック・コマース、こういうものを今後は当然活用していこうと思っています。
 今、エレクトロニック・コマースの実験が通産省で始まりました。基本的には、そ れが始まって本格的に各社が参加、しかもテレビでインターネットという段階になると、商店街レベルの皆さんが参加されることになると思いますから、そうなると、価格競合は恐ろしいような状態に多分なると思います。同時に、それは日本だけの動きではなくて、シンガポールのほうがもっと進んでいますし、96年早ければ6月ぐらいにマイクロソフト・ネットワークで、ビル・ゲイツのマイクロソフト通信がMASTER 他各社と、コマースに関しては世界仕様のサービスを始めるというふうに我々は聞いています。
 つまり、ウインドウズ95からインターネットを立ち上げると、右画面の上にVI SA/MASTERマークが出ているんです。それをクリックすると、自分の口座が 出てきて、あとはホームバンキング、ファームバンキングというふうになっていく。 必ずしも日の丸バックアップの国産型のエレクトロニック・コマースでやる必然性は 全然ユーザーにはないんです。ですから、住友VISAじゃなくて、VISAダイレ クトに行けばいいということで、今でもそういうことを活用しているフリーの人は多 いみたいです。

 大前研一さんに言わせると、シカゴ大学の大学院の修士をインターネットで今とれ るので、その授業料の支払いもシティバンクを通じてやれば、今お金がなくてもシカ ゴ大学の大学院に入れる。みんなどんどん使えと。
 前回の都知事選の提案の中で、都立大学の入学試験をなくしてみんな自由に入学で きるようにすればいいじゃないかということをおっしゃっていましたが、まさしくそ うだと思います。地方にいても、どこにいても関係ないわけですから、勉強する意思 がある人間というのは、スクーリングで会場に出かけていくというのはあってもいい かもしれないですけれども、都立大学が40万人の学生を引き受ければ、今の受験地 獄とか、そこから派生しているいじめとか、非常にゆがんだ教育行政も一遍に終わっ てしまう。マルチメディアがつくり出す新しい社会の構造というのは、かなり根本的 な転換という形に僕はなっていくんじゃないかなと思っています。

 基本的にこの「ワーキング、マーケティング、サーヴィス、マネー」という領域での「売りの完結」がギルドの基本構造です。これは農協とか、大手の労働組合が持っている売りの完結の構造に近いですね。自分たちのことは自分でやるんだと、そういうことです。ですから、我々だけじゃなくて各方面で600万人のエージェントになるギルドのような独自の経済圏を電子ネットワークを使ってつくっていけばいいじゃないかと。


ポスト組織型巨大瞬間市場の時代

 ここで1つ重要なことがあるんですが、これをやっていくと、我々も協議していて 気がついたんですが、例えば消費のパッケージデザインとかコンテンツ性、ゲームソ フトのプログラムとか、そういうものは我々の業界でやっています。そうしたら、ア イディアがあればタスクチームでOEMで発注してしまえばいいんじゃないか、そういうことにもなってくるんですね。

 今、音楽業界でも既にインターネットを使って始まっているんですが、音源公開を して、音源を契約したいレコード会社を探すんですね。これはドイツでもいいし、ア メリカでもいいし、どこでもいい。レコードをプレスしたいところを探して、プレス に関してはそこと一たん、契約を交わして、そこに、例えば北米市場なり、ヨーロッ パ市場なり、アジア市場のそれぞれのディストリビューション権利を与えていく。今 はミュージシャンが中心なんですよ。レコード会社がミュージシャンを雇ってという 考え方は古いみたいです。
 ミスターチルドレンであるとか、小室さんであるとか、一人でも何百億円という売り上げを上げていますから。 漫画家で見れば、ちびまる子ちゃんというのが関連売上で1,000億円近い売り上げです。
 これは1年、2年で一般の企業が単一商品で売り上げられる数字ではないです。この10年間の日本の企業の経常利益のトップテンの流れを見ればおわかりになると思いますが、4年前に既に松下電器の経常利益を任天堂は上回っています。ソフトコン テンツビジネスの巨大さというのは、マーケットが国内マーケットだけじゃなくて、 世界マーケットにリアルに直結するという部分で、非常にスピーディだし、投資回収 も早い。

 こういうふうに考えていけば、ギルド自体でそういうソフトビジネスは幾ら でもつくっていくことができるんじゃないか。先ほど言った、一種のハリウッドビジ ネススタイルで、プロジェクトごとにチームをつくって、投資グループを募る。回収 できた時点で解散していく。そして、どんどんテーマを吸収、消化していく。
 そういう流れの中では、既存のヒエラルキー型の組織は、必要ないというよりも邪 魔かもしれないんです。ネットワーク型の組織になっていかないとだめだと。

 電通総研では実際、コマースの中にどうアドビルボードを入れていくとかという問題を研究されているらしい。
 例えば、東京ドーム。プロ野球の巨人戦の広告は非常にいいんですね、高いわけです。ところが、マルチメディアでテレビにインターネットをインストールして、一体型で巨人戦を見る時代になったときに、いつも巨人戦は見えるわけです。リアルに見る必要はない。ビデオに録画する必要もない。いつでも見える。
 例えば、看板をNECが全部買い取りたいと。そのときはビルボード情報にバーチ ャルボードを入れればいい。選手は動き回っているけれども、後ろの看板をよく見るとみんなNECじゃないか。あるいは、上の位置から落とすカメラ、インタラクティブ・カメラで切りかえをやったときに、ダイヤモンドの真ん中にどんとVISAがあると。そういうことができるんです。その技術開発はMITのメディア・ラボでもしていますし、それは現状の法律の上でも何の問題もない。そういうふうに多分なっていくんじゃないかな。つまり、個人個人が見ているコンテンツが変わっていくという可能性ですね。


組織を維持するためだけの経済は必要ない

 先ほど言った、ダイレクトでレスポンスがあるという部分では、ドゥーハウスという全国の主婦をネットワークしている会社があります。代表の稲垣さんは「商品はマスでは売れない、口コミなんだ。情報発信はマスじゃない」と20年主張されてきたひとです。
 これはどういうことを言っているかおわかりになると思いますけれども、テレビや 新聞の情報の認知率は8%を今切っているんですよ。テレビを見てかちゃかちゃかえ ますよね、クリッパーというんですが。「TVクリッパー」で若い人はかちゃかちゃかえますから、CMは頭の中に印象として残っていないわけです。
 例えば、行政のCMが出てくる。行政のCMは何かというと、かたいCMだという レベルの認識でしかない。漢字を読まないですから、子供は。今の若い大人もそうですよ、漢字を読まないですから単に「わからない。カンケーない」ものとしてしか認識しないわけですよ。まじめなCMをやっているところだなという印象だけで、発信元も含めてオリジナルの情報は何も伝わっていない。

 新聞もそうですね。朝日新聞をばっとめくりますね。きょうの朝日新聞の一面広告 に何があったか覚えている人は多分、いらっしゃらないと思うんです。つまり、1,5 00万円かけて全国の朝日新聞の15段に刷っても、認知は8%以下なんです。それよ りも、むしろインターネットとか深夜テレビ帯とかターゲットが絞られたメディアの 中で、社会的事件を起こしていくとか、強烈なわかりやすいシンボリックなメッセー ジを発信したほうが記憶に残るんです。

 ちょっと話が戻りますけれども、日本ハム戦で「キッスをしたら東京ドームが入場無料になる」というプロモーションをやりました。これは3年ぐらい前ですけれども、Jリーグが始まるというので、パリーグはやばいと。球団や親会社の日本ハムと話をして、希望を聞いたところ、日本ハムは、「野球は弱くてもいい、弱いのはしようがない。とにかく人が入ってくれればいいよ」と。
 「じゃ、野球をメインに打ち出さなくてもいいですか」と言ったら、「いいんじゃないの。むしろ、日本ハム戦になるべく多くの人に来てもらえばいい。ファンになるのはそれからでいい」といわれた。「それなら、東京ドームにまだ来たことのない人が多いですから、東京ドームに行って、野球を見ながらビールを飲もう、騒ごう、それでいきましょう」。それで、「キッスをしたら入場無料」とか、「仮装をしてきたら入場無料」というプロモーションをやったんです。

 初日一晩で、テレビで総計35分社会報道があったんです。 NHKの7時のニュースで報道されるプロモーションも珍しい.1日で報道費換算で1億円の効果があったと。半年の間メディアで500件取り上げられましたから、非常にそういう意味では、社会的な事件じゃないんですけれども、シンボリックに何をしていくのか、明確に絞ってやっていくやり方のほうが効果があるんですよ。

 そういうことを電通と一緒に共同提案すると、内部ブレンストーミングで「それは おもしろいアイディアだね」にはなるんですけれども、まず通らない。それは自粛し て出さないです。こういうことをやると後々困る。つまり、ルーティンワークが壊れ てしまうという部分と、組織対応ができなくなるんじゃないか。つまり、PTAから クレームが来たらどうするだ。不純異性交遊じゃないかみたいな、そういうクレーム があったらどうするんだとか。

 つまり、世の中にはおもしろい取り組みとか、おもしろい商品のアイディア、おもしろいプロモーションのアイディアは幾らでもあるんですよ。ユーザーの女子高校生に話をさせたら、ものすごくいろんなおもしろいことを言うんですね。ところが、それを商品化していく、サービス化していく過程で、本質的なものがなくなっていくんですよ。
みんなで協議して合意させていく、組織に合わせていく。だから、つまらないし,日本経済も停滞した。今は組織を維持するための経済なんですよ。それは全く方向が逆で、組織を解体するための経済になっていかない限り、マーケットは生きてこないです。


インターネットはあくまで道具

 我々の場合だとインターネットはあくまでも道具ですから、これは徹底的に使えるだけ使ってやろうということで、目的は我々のライフデザインをどうするか、我々のマネーとか,人のネットワークをどうするか、マネジメントをどうするか。とにかくこれが目的です。この目的を実現するために、1万円で世界6,000万人に自己アピールができるんだったら、これは安いですよね、当然。

 健康診断1つとってみても、組織を持たない人にとっては情報が来ないわけです。 国のほうは、情報発信をしていると言うかもしれませんけれども、来ないです。保健 所に自分たちから出向いていっても、健康診断の日時とか、そういうものがうまく処 理されるようなケースはありません。国家、政府、大企業、既存の組織というのは、 組織を維持するためにしか働かないですから、それを支えている人たち、本来主権者 である国民、市民の側に一見、目が向いているようで、組織の内部に目が向いている んですよ。

 組織を維持していくための情報発信をしていく限り、それは生きたユーザーによっ て構成されている市場経済には、僕は無視されていくんじゃないかと思います。それ でもいいんであれば、既存のマスメディアと同じようなやり方で情報発信をしていく べきですが、今の電通や博報堂も既にそういうことに気づいています、当然ビジネス ですから。そういう方向の提案というのは出てこないんじゃないか。そこで、だれが 出てくるかというと、そういう一見わけがわからない人たちですね。
 我々もそうなんですよ。事務所は原宿にあるんですが、明治通りを歩いている若い 高校生を見ても、ピアスなんかもしていますから、話をしないと我々もわからないん ですよ、彼らの感覚とか。言葉が違うわけです、言語回路が違う。1つの言葉をとっ ても意味している言葉が違うんですね。

 ボードリアールが言ったように、80年代以降、トライアドという全世界の6億人の先進国が記号消費の時代に入っていますから、いかにシンボリックなことを処理していくか、シンボリックビジネスをどう処理していくかということが、国家にとっても、行政にとっても、企業にとっても、一市民にとっても重要じゃないかなと。
 我々のほうから見ると、労働組合、農協、政府、そういうところが一体になってやってきたナアナアの流れ、その流れの中でインターネットビジネスというのは僕は存在しずらいのではと思っています。


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